合評会:南塚信吾・小谷汪之・木畑洋一編著『座談会・世界史の中の安倍政権』(日本経済評論社、2015年12月)
2016年4月2日、本研究所会議室において標記の合評会が開催されました。評者は石橋功氏(神奈川県高等学校教育会館図書室室長)と澤野理氏(神奈川県寒川高等学校教諭)のお二人でした。本書は、歴史研究者と一般の読者の双方に読んでいただくことを意図したものなので、その両者をつなぐ立場におられる歴史教育者に書評をお願いしたわけです。お二人は、同僚二名の先生からの書面による書評も紹介してくださいました。
合評会では、おもに、大きな歴史の中における安倍政権の位置づけが議論されました。安倍政権が1980年代以後の世界史の変化の産物であるという点については、賛成の意見が多かったのですが、そうだとするならば、①安倍政権のような政権は「安倍」以後にも現れるということになるのかとか、②安倍政権と似たような政権を世界的に比較検討するべきではないかとか、③世界全体の政権の中での安倍政権の独自性・特殊性をどこに求めるかといった問題が議論されました。この③に関しては、安倍首相の個人史や、「安倍」と「岸」との関係を新ためて分析すべきだという意見や、明治維新そのものを見直していく必要があるといった意見がありました。
この他、安倍政権とヒトラー政権との比較の問題、現在の日米同盟とかつての日英同盟との比較の問題などが議論されました。また、今回の座談会では歴史教育の問題が十分に扱われていないではないかという批判もありました。
最後に、現在の安倍政権に代表されるような世界の政治の動きに対して、どう対応していくべきかという問題も提起されました。これについては、国境を越えた市民の連帯が必要だろうが、そのような例は現実にどのようなものがあるのだろうかとか、この本を読んでも何をなすべきかということはすぐには分からないとか、歴史家はただものを書いたり議論をしたりするだけではなく、行動すべきではないかといった意見が出されました。
合評会を終えて、改めて、なぜ安倍政権を世界史の中で考えなければならなかったのかを、省察させられましたが、やはり世界史的規模で考えてはじめて、安倍政権の特異性や独自性という問題が出てくるのではないかと思った次第でした。歴史を学ぶものとして、この本が出たことによって、安倍政権の動き方がより明確に分かってくるとともに、新たな問題も浮かび上がってくるわけで、それに対応した著作や活動が必要になってくるでしょう。また、この本が出たことによって、安倍政権自体の動き方も変わってくるかもしれません。今後も注意が必要です。
(文責 南塚)