イスラエル軍ガザ攻撃60日目の今
藤田進

Israeli tanks surrounding the Al-Shifa Medical Complex in Gaza City. (Photo: via WAFA)

 11月14日深夜イスラエル軍は、ガザ北部のシファ病院地下にハマースの司令部があるとして突入に踏み切った。そして病院敷地内で地下トンネルの「入り口」を発見、武器も発見したと主張した。ハマースはこれらの情報についてイスラエル軍のでっち上げとした。病院は命を繋ぐ最後の砦であり、如何なる大義名分を掲げようとも決して侵されることが許されない。最大限の言葉で非難すると共に、この凄惨な事態を伝える情報の乏しさと偏りによって、パレスチナの人々の命を危機に晒す残虐行為が正当化されることの無きよう、現地の報道や情報を交え現状をお伝えしたい(藤田進)。

Ⅰ イスラエル軍によるシファ病院蹂躙の詳細

 シファ病院はガザ最大の総合病院であり、特に高度の技術水準の医師と最新医療設備を備えた外科・整形外科の存在はガザ住民にとりきわめて重要であり、年間3万2000件の手術(2022年)をこなしてきた(https://www.aljazeera.net/encyclopedia/2023/11/27)。ガザ自治政府広報部の発表によれば、イスラエル軍封鎖当時シファ病院には約1500人の医師、約700人の患者、新生児39人、さらに家を失い安全を求めて避難してきた人々が約7000人いた。

 11月14日深夜イスラエル軍がシファ病院に突入した。翌15日の衛星テレビのアル・ジャジーラのインタビューで、ガザ病院連合会長のムハンマド・ザクート氏は病院の窮状について次のように語った。

 「シファ病院はイスラエル軍突入の数日前から戦車で包囲されており、電力も燃料も断ち切られた中で集中治療室の患者と新生児の多くが死亡した。イスラエル軍はイスラムの戒律に基いて死者を弔い埋葬することを禁じ、病院当局はやむなく昨日14日に100人の犠牲者の遺体を病院の構内に集団埋葬した」。

 「イスラエル軍突入時、病院構内にはパレスチナ人コマンドもイスラエルの人質も見当たらず、軍は一発の銃弾も浴びなかったにもかかわらず、建物の通路から出てくる人々を銃撃した。」

 「イスラエルはシファ病院にハマースの軍司令部があると主張したが、ハマースはこの主張を全面的に否定し、国連調査委員会にことの真相をあきらかにするよう要求していた。」

 「イスラエル占領軍は自軍兵士が病院内へ突入すれば勝利は自分たちのものだと判断し、15日の明け方緊急治療棟と外科病棟の二つの建物に突入した。しかしハマース軍の存在を示すようなものは何も発見できなかった。病院内に閉じ込められた患者、患者の付添人、医師たちは院内を移動することも禁止されて10時間にわたる取り調べを受け、取り調べは今も続いている。」

 「新生児が看護、保育器、薬を欠いて特に危険な状態にあり、我々ガザの医師団はイスラエル軍に発電用燃料を病院に緊急に供給して欲しいと訴えたが、占領軍はその要求を拒否した。」

 「エジプト側のラファ検問所を通って運ばれてくる医療支援物資は2週間前から全くガザ市に届いておらず、我々は患者たちのエジプトへの移送を強く求めている。」https://www.alijazeera.net/news/2023/11/15

 11月18日、シファ病院を占拠しているイスラエル軍はムハンマド・アブー・サルミーヤ病院長に病院を明け渡すよう通告した。院長はこれまでに通告を何度か拒否してきたが、ついに数百人の患者と避難者たちをガザ南部の他の病院へ移し、また数十人の新生児を安全地帯へ緊急移送する措置を講じた(https://www.alijazeera.net/news/2023/11/27)。

Ⅱ WHOのシファ病院惨状視察報告

 患者、避難民、医師団のほとんどが病院から立ち退かされたあと、世界保険機関(WHO)などの専門家チームがシファ病院の惨状視察に訪れた。イスラエル軍の許可をえて1時間だけ病院内に入ったWHOは記者会見でシファ病院を『死の地帯』と表現し、病院の惨状について次のように発表した。

 「病院にはイスラエル軍の爆撃や銃撃の弾痕跡が多く認められ、病院の入り口付近の敷地は集団埋葬地となっており、80人以上の遺体が埋葬されているとのことである。」

 「院内には25人の医療スタッフと291人の患者しか残っておらず、病院から強制退去させられるときに数人の患者が死亡している。換気装置が止まった集中治療室の2人の患者と人工透析機がかろうじて動いている22人の患者は極めて危険な状態にある。重度の骨折状態の患者29人は医療介護者を欠いて動くこともできない状態にあった。心的外傷患者の多くが伝染予防措置や抗生物質の欠如により感染症を患っていた。新生未熟児31人は無事にガザ南部のラファの病院に搬送された。」

 WHOはシファ病院の患者、医療スタッフ、さらにはガザ北部で部分的医療業務を続けている病院に取り残されている人々の安全と健康状態について重大な危惧を表明した。

 最後にWHOは病院とハマース軍事拠点との関連についても触れ、「シファ病院の医師たちは病院内にいるのは一般市民だけでコマンドの姿は見たことがないと語っていた。我々も、病院がハマース軍事本部として使われていたとする根拠を見いだすことはできなかった」と述べた。

 WHOは、ガザにおける人道にもとる大破滅を阻止するために即時停戦ととぎれることのない人道支援にむけて全世界が一致して取り組むよう訴えた(https://www.palestinechronicle.com/al-shifa-hospital-was-turned-into-who)。

Ⅲ イスラエル軍の「病院地下のハマース軍事指令部」説の破綻

 11月16日、シファ病院捜索中のイスラエル占領軍のダニエル・ハガル報道官が「病院にハマースの地下トンネルと武器・秘密情報機材等を発見した」と発表した。しかしこの主張がハマースの全面否定や先のWHOのコメントが指摘するように物証不足で説得力を欠く中、11月23日のアメリカ衛星テレビCNNのインタビューで、元イスラエル軍司令官でイスラエル首相も務めたエフード・バラク氏が「イスラエルはガザを占領していた40~50年前にシファ病院の地下に避難所を作り、地下トンネルもそのときに掘った」と証言し(https://www.aljazeera.net/politics/2023/11/23)、イスラエル側の「ハマースの築いた地下トンネル」説は決定的に破綻した。イスラエルが「テロリストのハマースの軍事拠点」を発見して「ガザ侵略戦争」を正当化しようと企てた情報戦略は、多方面からの証言や情報により信憑性は揺らぎ、イスラエル軍はガザ住民への残虐行為を繰り返しているに過ぎないという現状が浮き彫りとなった。

 イスラエルとハマースは人質交換とガザへの緊急支援物資搬入のため、11月24日から4日間(その後3日間延長)の停戦協定を結んだ。しかし停戦期間4日目の11月27日、ガザ自治政府保険省スポークスマンのアシュラフ・アルキドラ氏がガザ北部の医療システム崩壊状況を次のように明らかにした。

 「イスラエル占領軍はガザ北部の病院組織を破壊して同地域から住民をガザ南部へ立ち退かせようとしており、医師・看護士たちも一緒に追い立ててその多くを死傷させようとしている。救急車は60台以上が破壊され、医療関係施設は160か所が爆撃されて28の病院は医療活動不能となり、応急措置を施す医療センター63か所も破壊された。」

 「イスラエル・ハマース停戦協定発効直後にガザに搬入された医療物資は必要量より少く、しかも遺憾なことにガザ北部の病院には全く届かなかった。停戦協定期間中もイスラエル軍の病院弾圧は続いており、ガザの医療状態の悪化は極限まできている。ガザの保険組織を保護する役割を担っている国連諸機関は全くその任を果たしていない。医療必需品が十分供給されぬままガザの医療システムは刻々崩壊しつつある。」(The Palestine Information Center,2023 November 27  https://palinfo.com/864355

Ⅳ 停戦期間打ち切り後のハマース政治局員サーレフ・アルアルーリーの声明

 12月1日ドーハで行き詰まった人質交換交渉決裂後、イスラエル軍はガザ報復攻撃を再開し1日で200名以上のパレスチナ人を殺害した。2日夕方、ハマース政治局員のサーレフ・アルアルーリーが次の様なメッセージをアル・ジャジーラ・ネットとのインタビューで表明した。

  1. 「ハマースは最初から外国人の人質は無条件で解放し、また子どもと女性も人質対象でないので解放することにしていた。いま我々のもとにいる人質はイスラエル人の兵士と元軍人だけである。イスラエルが兵士の人質解放交渉を途中で拒否したのは、女性や子供を殺害し続けることによって我々を屈服させようと考えているからである。だがもはや我々は、イスラエルが敵対戦争を終了するまで人質解放交渉に応じるつもりはない。これが我々の公的で最終的な立場である。」
  2. 「イスラエル軍はガザ攻撃に陸軍の3分の1、空軍の3分の1以上を動員したが、その軍事力は数か国を完全に打ち敗れるほど強力である。しかしイスラエルはその軍事力を駆使して50日もかけながら、ガザ北部の3分の1の侵略にとどまりしかも我々の抵抗にあって同地域を完全掌握できないままである。そしてイスラエルが軍事力でハマース殲滅、人質奪還、ガザ占領を実現すると宣言したのを当初支持した国々も、今ではそれらの目的実現は困難だと確信するに至った。」

 そしてアルアルーリーは声明の最後で、イスラエルを断固支持するアメリカについて次の様に述べた。「アメリカは、パレスチナ人に対する数々の犯罪を隠ぺいし、それらの犯罪を様々な口実を設けて正当化し、またみずからも加担している。アメリカは犯罪性において、シオニスト国家イスラエルと同列である。パレスチナにおける戦闘の武器供与国であるアメリカは道徳的に完全に破綻しており、占領国家というよりはファシズム・ナチズム型国家である。」(引用はアル・ジャジーラ記事を掲載したパレスチナ情報センター12月2日ニュースからhttps://palinfo.com/news/2023/12/02/865255)

イスラエル空爆下の病院で懐中電灯で照らしながら負傷者を手当するパレス人医師(2023年11月10日、ガザ市のインドネシア病院)© 2023 Anas al-Shareef/Reuters (https://www.hrw.org/news/2023/11/14/gaza-unlawful-israeli-hospital-strikes-worsen-health-crisis
1948年5月イスラエル軍に村から集団追放されたパレスチナ人家族(ナクバ)(https://www.aljazeera.net/midan/reality/politics/2023/12/7/)
右2023年11月、イスラエル軍にガザ北部から追い出され南部に徒歩で向かうパレスチナ人家族(ナクバ再来の恐怖)
(https://palinfo.com/?p=861054)

投稿日: 2023年12月7日

(「世界史の眼」2023.12 特集号4)

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