2025年6月21日、アメリカが突然イランの核施設3か所を攻撃した。イスラエルに続いてアメリカがイラン攻撃に参戦したわけである。この問題をめぐって、ネット上に登場した日本の主要新聞の「社説」「主張」を比較点検してみた。比較したのは、日本経済新聞6月22日社説、読売新聞、産経新聞、朝日新聞、毎日新聞、信濃毎日新聞、東京新聞、北海道新聞、神戸新聞の各6月23日社説・主張である。すでに、イスラエルのイラン攻撃についての各紙の社説などは、比較して検討してみたが、それを受け継いで、アメリカのイラン攻撃についての社説などを検討しようというのである。なるべく重複は避けるようにしてみた。
論点は多岐にわたるが、以下では主なものについてのみ、検討の対象としている。
1.国連憲章との関係について
(1)アメリカのイラン攻撃が国連憲章と国際法への明白な「違反」「暴挙」であると厳しく批判しているのは、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、東京新聞、信濃毎日新聞、北海道新聞、神戸新聞、赤旗である。
例えば、北海道新聞は、「最大限に非難する」とし、毎日新聞は、「ルールや手続きを一切度外視し、思いのままに他国の領土を攻撃するトランプ氏の行動は、道理に反し、看過できない」とし、朝日新聞は、「法の支配」の揺らぎは深刻だと警戒している。東京新聞は、「米政権は4月以降、核開発を進めるイランとの交渉を続け、軍事介入とは距離を置いてきたが、イスラエルのイラン攻撃を受けて、攻撃を準備しつつ、イランに無条件降伏を迫る姿勢に転換した」として、イラン攻撃の根拠の曖昧さを突いた。
(2)これに対し、読売新聞、産経新聞は、アメリカの攻撃は国連憲章への違反だという批判はしていない。読売新聞は、「国連憲章や国際法に違反している」というのは、イランの主張だという。では、イスラエルの攻撃にどういう正当な理由があるというのだろう。読売新聞は、「ウクライナやパレスチナ自治区ガザでの停戦はめどが立たず、イランとの核交渉も行き詰まっていた。外交で実績が乏しい中、トランプ氏は成果を急いでイラン攻撃を決断した」とするだけで、正当な理由は示していない。
産経新聞は、アメリカは「核武装を阻止するとしてイランを攻撃中のイスラエルに加勢した」のであり、「核兵器級の90%へ近づく行動で、イスラエルなどがイランは短期間で核兵器を生産できると危機感を強めたのは当然だろう。」とする。
両紙とも、国際法上の理由は示していない。この論理では、自国の都合や判断で、いつでも他国を武力攻撃できることになる。
(3)この問題は「自衛権」の有無に関係している。一主権国家が他の主権国家を武力攻撃するというのは、国連憲章に認められた「自衛権」の行使以外にはありえないわけであるが、アメリカがイランのために自国の危機が差し迫っているわけではないので「自衛」ということは当てはまらないというのが、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞などの主張である。
毎日新聞は、「国際法上、他国への武力行使が認められるのは、自衛権の行使か国連安全保障理事会の決議がある場合に限定されている。自衛権の行使は、攻撃を受けた後に反撃する場合や、差し迫った脅威があることが前提となるが、いずれにも当たらない。」と厳しい。したがって、「国連のグテレス事務総長が「深刻な懸念」を示し、「世界の平和と安全に対する直接的な脅威だ」と警告したのは、当然だろうという。
朝日新聞も、アメリカの攻撃は、「自衛権の行使を例外に紛争の武力解決を禁じた国連憲章に反する。グテーレス国連事務総長が「国際の平和と安全に対する直接的な脅威だ」と批判したのは当然だと言う。
日本経済新聞も、「国連憲章は武力行使を原則として禁じる。例外として自衛権の行使を認めるが、米国に正当化できる差し迫った脅威があるのだろうか。軍事介入を認める国連安全保障理事会決議も得ていない。」と批判する。
6月15日から6月17日に開かれたカナダでの主要7カ国首脳会議(G7会議)nには期待する面もあったが、その共同声明は米国への配慮からイスラエルの自衛権を支持したのだった。東京新聞は、「誤りは明白だ」と厳しく批判した。そして、「米国の軍事行動を厳しく非難し、国際秩序を守る決意の言葉を発するよう求める」と強い論調を張った。
これら各紙は、イスラエルについてさえ、そのような自衛権は認められないとしていたわけであるから、ましてアメリカについては、自衛権などは問題外だということである。
一方、読売新聞の議論では、アメリカは、イスラエルの「自衛権の行使」を認め、自らはイスラエルに加担したのだと、説明している。産経新聞は、自衛権の問題にはまったく触れていない。
この問題は、さらにイランの核開発の評価に関係している。
2.イランの核兵器開発について
(1)朝日新聞、日本経済新聞、東京新聞、北海道新聞、神戸新聞は、イランの核開発が核兵器の保有近くにまで進んでいたからと言って、アメリカが攻撃したことは非難すべきだとしている。とくに日本経済新聞、東京新聞、神戸新聞は、アメリカはイランが核を保有しているという「根拠」を示すべきだと主張している。
この問題では、日本経済新聞が厳しい姿勢を取っている。同紙は、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、イランの核兵器開発に向けた組織的取り組みの証拠はないとしていたことを指摘し、イランが核兵器を持っているという「根拠はあやふやだ」と批判する。東京新聞も、イランの核兵器製造の「証拠がない」と指摘する。
日本経済新聞は、ギャバード米国家情報長官が3月時点で、イランは核兵器を製造していないとの見解を示していたのに、トランプ氏がその分析を否定すると、同氏と足並みをそろえて説明を翻したとして、トランプの圧力を示唆する。同じく、朝日新聞も、アメリカの情報局長がイランの核保有を否定しているのに、トランプがそれは嘘だと否定した件を取り上げている。
以上の新聞や赤旗は、すべて2003年にアメリカのブッシュ大統領がイラクを攻撃した時、イラクが大量破壊兵器を持っていると主張して攻撃したが、のちにイラクは大量破壊兵器を持っていなかったことが判明したことを引き合いに出して、その轍を踏まないよう警告していた。例えば、「2003年のイラク戦争の教訓を米国は忘れてしまったのか」と、日本経済新聞は驚きを隠さない。イラク攻撃のときも安保理決議はなかったが、パウエル米国務長官が安保理で報告するなど一定の手続きを踏む姿勢をみせた。それに比べ、トランプ政権は軍事介入につき国連安全保障理事会に報告さえしようとしていないという。毎日新聞も同様の主張である。
(2)これに対して、読売新聞と産経新聞は違った議論をしている。産経新聞は、イランの核武装を前提にして、アメリカはイランの核武装を阻止するためにイスラエルに加勢したのだとし、イランは速やかに核兵器を放棄すべきだと主張する。「核兵器級の90%へ近づく行動で、イスラエルなどがイランは短期間で核兵器を生産できると危機感を強めたのは当然だろう。」「イランはイスラエルの生存権を認めないと公言する唯一の国である。イランが核兵器を持てば、直接または親イラン武装勢力によって、イスラエル攻撃に用いられる恐れがあった。それは核戦争の勃発につながる」と、理解を示した。しかし、これはアメリカの危機ではないのではなかろうか。
このようなイスラエルやアメリカの危機対応を理解してあげる教訓として、産経新聞は、2003年のイラク戦争ではなく、1994年の北朝鮮問題を挙げる。1994年に北朝鮮の核武装をめぐってアメリカが北朝鮮に妥協して、その後の北の核武装を許してしまったと主張して、そのような失敗をするなと言うのである。「1994年当時の米国や日韓は北朝鮮の核武装を見過ごしたが、現代のイスラエルや米国は核武装に進むイランの行動を傍観しなかったことになる」と、正当化するのである。
一方、読売新聞は、アメリカは、イランとの核交渉も行き詰まり、外交で実績が乏しい中、トランプが成果を急いでイラン攻撃を決断したとする。イスラエルは、米国に軍事介入するよう求めていたが、トランプは当初、否定的だった。だが、イスラエルの攻撃が成果を上げたとの見方が広がると、一転してイラン攻撃へと傾いたのだという。だが、これは攻撃の正当化にはならない。
いずれも、核兵器保有の「根拠」などは必要なかったと見ているわけである。恐ろしいことに、この二紙によれば、核兵器保有の可能性があれば、大国は自由に他国を攻撃できることになる。
3.イランの反応について
アメリカの攻撃を受けたイランについては、各紙はどのように論じているのだろうか。
第一に、アメリカの攻撃を受けたイランの自制を求めるのが多い。例えば、日本経済新聞は、「イランは米国の軍事介入があれば報復する構えを示してきた。中東の米軍基地に反撃し、周辺のアラブ諸国に戦火が広がりかねない。報復の連鎖は危険だ。イランに慎重な行動を求めたい」と述べた。
第二に、アメリカの攻撃がイランの核開発を刺激することを怖れる声が多い。例えば、同じく日本経済新聞は、イランが通常兵器だけでは抑止力を回復できないとみて、核兵器の製造に傾くかもしれない。そうなれば不安定な中東に大きな火種を残す。イランが核拡散防止条約(NPT)からの脱退に動けば、世界の核不拡散の努力に向かい風が強まるという議論を展開している。信濃毎日新聞も同様にイランの核開発に懸念を表明している。
第三に、朝日新聞は、「イランに非がなかったわけではない」とする。イランは、「原発の燃料などに必要な濃度をはるかに上回る高濃縮ウランの貯蔵量を増やし続けた。これが、トランプ政権と距離を置いていた欧州の疑念も呼び、イスラエルに攻撃の口実を与えた」というのである。たしかにそうではあるが、このような「非」を主張しているのは、同紙だけであった。
第四に、イスラエルのイラン攻撃に際しては、イランの体制危機を問題にしていた毎日新聞などは、今回は、それを問題にしなかった。代わって、東京新聞がこう述べていた。「軍事的にはイランの劣勢は明白だが、最高指導者ハメネイ師にとってイスラム革命体制の維持が最優先で、体制崩壊につながる降伏は選択肢になり得ない。」と。
体制の危機を意識したのか、ともかく、イランの報復は限定的で、戦火は当面拡大はしなかった。しかし、イランの体制にどういう問題が生じたのか、またイランが核開発をどのように再開したのかなどは分からない。
4.イスラエルの対応について
アメリカのイラン攻撃に関連して、イスラエルがどのように論じられたのだろうか。
(1)イスラエルの動きを最も厳しく批判するのが、北海道新聞である。国際法違反の主権侵害を先に行ったのはイスラエルだ。そのイスラエルの要請に応じ、世界最大の軍事大国が歩調を合わせたことを国際社会は最大限非難しなければならない。アメリカは、国連決議や正当な根拠もなく、一方的に先制攻撃を加えた。こうアメリカを批判した後、同紙は、イスラエルについて、イスラエルのネタニヤフ首相は米国の攻撃を称賛した。イスラエルはガザで非人道的な攻撃を続けている。同国は、事実上の核保有国であるにもかかわらず核拡散防止条約(NPT)に非加盟で、国際原子力機関(IAEA)の査察も受けていないと批判する。そのイスラエルに肩入れする米国のこうした中東地域での偏った対応は、国際テロ組織アルカイダや過激派組織イスラム国(IS)などの憎しみの連鎖を生むことにもつながったのだと指摘した。
日本経済新聞も厳しい。今回のトランプのアメリカのイラン攻撃は、「イスラエルと一体化した軍事行動を急いだ場当たり的な対応との印象が拭えない」という。そして、イスラエルのネタニヤフ首相が「強さこそが平和を生み出す」とトランプ氏をたたえたこと、同国はパレスチナ自治区ガザへの攻撃を1年半以上も続ける傍ら、今月になって一方的にイラン攻撃を始めたこと、国際法違反との非難が周辺国から相次いだことを指摘したうえで、米国はイスラエルに強い影響力を持つのに自制させず、イラン攻撃に加担したと批判した。
(2)ネタニヤフへの直接的な言及をしないが、イスラエルの立場を基本的に批判するのが、多い。朝日新聞は、「イスラエルが一方的にイランの核保有が間近だと主張して先制攻撃した。そして、イスラエル単独では破壊できない地下施設などの攻撃に米国が協力した」とし、その正当性の欠如を指摘した。だが、主要7カ国(G7)首脳会議は、戦線を広げるイスラエルに自制を求めず、むしろ「自国を守る権利」を認めたと批判した。
信濃毎日新聞は、イスラエルは、イランの核開発が自国への脅威だとして一方的な攻撃を仕掛けたのであり、武力行使の禁止を原則とする国連憲章に違反し、「自衛」は正当化できないと批判する。そのうえで、今回、米軍がイスラエルに加勢し、イランの核施設を攻撃したのであるとする。したがって、正当性はまったくないことになる。そして、日本を含む国際社会は、米国とイスラエルの攻撃を厳しく非難した上で、イランを含めた当事国に強く自制を促すべきだと警告した。
毎日新聞は、米軍による核施設攻撃は、「イスラエルが要請していた」と断言する。そしてネタニヤフ首相はアメリカのイラン攻撃を「大胆な決断」とたたえ、「米国は無敵だ」と述べた。そもそもイランに対するイスラエルの先制攻撃が国際法に抵触する。米軍の攻撃はその違法行為に加担したも同じだと厳しく批判する。
神戸新聞は、アメリカは、イスラエルが仕掛けたこのたびの戦闘に、核兵器開発の根拠を示さず加担したという。そして、イランだけでなく、イスラエルの核兵器開発の実態も解明してもらいたいと、ポイントを突いた注文を出していた。同紙は、覇権主義こそが今の世界情勢を危機にさらしている元凶だとして、イスラエルとアメリカなどの覇権主義を批判する立場を取っている。
(3)読売新聞は、ややあいまいな姿勢を取った。イランを巡ってはイスラエルが今月中旬、核施設を空爆し、米国に軍事介入するよう求めていた。トランプ氏は当初、否定的だったが、イスラエルの攻撃が成果を上げたとの見方が広がると、一転してイラン攻撃へと傾いた。トランプ氏は以前から、他国の紛争に米国は関与すべきではないという立場を取り、武力行使には慎重とみられてきた。だが今回は、イスラエルの「自衛権の行使」を認め、自ら加担した、というのである。ただ、これを正当だとも、誤りだとも明言していない。
(4)産経新聞はアメリカ、イスラエルの攻撃を正当化している。アメリカは、核武装を阻止するとしてイランを攻撃中のイスラエルに加勢したのである。イランはイスラエルの生存権を認めないと公言する唯一の国である。イランが核兵器を持てば、直接または親イラン武装勢力によって、イスラエル攻撃に用いられる恐れがあった。それは核戦争の勃発につながる。産経新聞は、こうして正当化した。
ともかく、今回のアメリカの攻撃は、イスラエルと通じた両国の連携攻撃であると各紙のいうところから確定することができる。残念ながら、その後イスラエルやアメリカの攻撃を諸国は押しとどめることはできていない。イラン攻撃をめぐる両国の動きが当たり前になって、その結果、イスラエルは、核兵器の有無などに関係なく、ユダヤ教徒の保護を口実に他国を武力攻撃することを「自由」に行うようになっている。それは、7月16日のシリア攻撃に明確に表れている。
5.国際的対応
アメリカのイラン攻撃が世界全体に与える影響については、各紙はどのような点を指摘しているのだろうか。
(1)核不拡散条約(NPT)の信頼崩壊を懸念
朝日新聞は他紙とは違って、NPTの信頼崩壊を懸念している。曰く、「今回の攻撃で破壊されたのは、半世紀以上にわたり核軍縮に重要な役割を果たしてきた、核不拡散条約(NPT)への信頼だ。NPTは、米英仏中ロの5カ国にだけ核兵器を持つことを認めている。不平等だが、ほとんどの国連加盟国が批准し(ている)・・・ところが今回、NPTに加盟せずに核兵器を持つとされるイスラエルが、加盟国イランの核関連施設を攻撃した。これに核大国である米国も加勢した」。「核保有国は、条約が定める軍縮努力を怠るどころか、軍拡に転じている。自国の安全を守るには、NPTを脱退して核保有を目指すほうが得策だと考える風潮すら高まりかねないことを危惧する」。こうして、「法の支配」の揺らぎは深刻だと捉えている。
(2)第三国
第三国の役割の重要性に言及する紙がある。朝日新聞は、米ロ中の3大国が既存の秩序に挑んでいると捉え、新たな「戦間期」を生まないために求められるのは、「ミドルパワーの西欧や日本が軸となり、多国間協調を築く覚悟」であるという。神戸新聞は、「今後の停戦や核に関する協議は、中立的な第三国が仲介し、国際協調下で行う必要がある」という。
一方、日本経済新聞は、「大国間の競争から距離を置くグローバルサウス(新興・途上国)が米国に向ける視線は厳しさを増す可能性が高い」とし、グローバルサウスに注目している。同じく毎日新聞も、「欧州や中東の戦争により、経済的なしわ寄せを受けているグローバルサウス(新興・途上国)の不信感も増大するに違いない」と注目している。
大国への不信は北海道新聞も明言している。「先進7カ国首脳会議(G7サミット)は米国の離反を避けようとして、イスラエルの攻撃を容認する共同声明をまとめた。腰の引けた姿勢では米国の暴走を止めることはできまい。」とし、「国連は、欧州やアジア各国だけではなく、中ロも巻き込み事態収拾を急ぐ必要がある。」と主張した。そして、北海道新聞は、「中東情勢の激化により、原油高など日本だけでなく米国や世界の経済活動も不確実性が増す。日本は在留邦人の保護に万全を期すとともに、米国の攻撃を支持しない姿勢を明確にして仲介に動くべきだ。」と行動を求めた。
(3)アジア諸国
アジアへの影響については、毎日新聞が、「アジアでは北朝鮮が核弾頭を製造し、搭載可能な弾道ミサイルを多く配備する。脅威の度合いはイランより深刻だ」と警戒している。朝日新聞は、「欧州、中東、アフリカの戦乱に加え、先月は南アジアの核保有国であるインドとパキスタンの軍事衝突も起きた。日本が位置する東アジアも、台湾海峡と朝鮮半島の緊張が続く。大戦終結から80年の今年、国際社会は未踏の危険水域に進みつつある」と警戒する。産経新聞はよりリアルに、「中東方面への米軍出動の間隙(かんげき)を突いて、北東アジアで中国が軍事的圧迫を強めてくる事態への警戒も怠れない」として、警戒を強調した。これらは、どこまで根拠のある警戒なのであろうか。あるいは、どこまですぐに軍事的に対応しなければならない脅威なのであろうか。
(4)アメリカの暴走
実は、朝日新聞が、一言、「イラク戦争時から未解決な国際問題は実は、中東の混迷だけでなく、米国の暴走に対処するすべを世界が見いだせていない現実だ」と述べている。この指摘は重要である。同紙は、2025年6月のアメリカのイラン攻撃だけでなく、2003年の大量破壊兵器の保有という間違った口実に下で始めたイラク戦争以来のアメリカの「暴走」ということを言っている。しかも、アメリカの「暴走」については、「中東の混迷だけでなく」と言って、ウクライナ問題もそこに含めているのである。同様の指摘は、神戸新聞にも見られ、同紙は、トランプ氏は、イランが和平に応じなければ「将来の攻撃はさらに強大になる」と威嚇し、イスラエルのネタニヤフ首相も「力による平和を」と歓迎したが、しかし、「覇権主義こそが今の世界情勢を危機にさらしている元凶だ」と指摘していた。
6.日本の対応
アメリカのイラン攻撃にたいする日本の対応について各紙はどのような問題を指摘しているだろうか。
(1)まずは、アメリカの同盟国としての日本の役割という観点から、毎日新聞は、「日本は、同盟国として米国の身勝手な軍事力の行使を見過ごすようなことがあってはならない。欧州とも連携して自制を促すべきだ。」と論じた。同じく、日本経済新聞も、「日米同盟への配慮が必要とはいえ、安易に支持するのは控えるべきではないか。」とやんわりと日本の姿勢を批判した。
この延長線上で、日本の責任を問い、警告したのが、朝日新聞と信濃毎日新聞で、朝日新聞は、「戦禍への懸念よりも、イスラエル寄りの米国への配慮を優先した欧州、カナダ、日本は、重い責任を負ったことを自覚せねばなるまい」と警告した。また信濃毎日新聞は、「
日本を含む国際社会は、米国とイスラエルの攻撃を厳しく非難した上で、イランを含めた当事国に強く自制を促すべきだ。(日本は)歴史的にイランと友好関係を築いてきた立場を踏まえ、米国とは距離を置き、緊張を緩和する役割を主導すべきだ。」と指摘した。
北海道新聞は、上述のように、「日本は在留邦人の保護に万全を期すとともに、米国の攻撃を支持しない姿勢を明確にして仲介に動くべきだ。」と行動を求めた。
(2)この間の日本政府の主張の矛盾をついているのが、赤旗で、同紙は、石破政権はイスラエルがイランに先制攻撃を加えた際、「核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは到底許容できず、極めて遺憾であり、今回の行動を強く非難する」との外相談話を発表していました(13日)が、ところが、石破首相を含めた主要7カ国(G7)首脳の声明(16日)はトランプ大統領の意向をくんで、イスラエルの「自国を守る権利」を認め、「(同国の)安全に対する支持」を表明しましたと、日本政府の立場の二面性を指摘した。
(3)このような問題には触れず、イラン攻撃の日本人への影響を具体的に論じたのが、読売新聞であった。同紙は、「イスラエルとイランから在留邦人とその家族計100人以上が周辺国にバスで出国した。多くは民間機で日本に向かうという。政府は、民間機が使えなくなる場合などに備えて、自衛隊の拠点があるアフリカ東部・ジブチに空自の大型輸送機「C2」を2機派遣した。円滑に任務を果たすことを期待する。」と述べた。産経新聞は、軍事的対応にもっと踏み込んで、「機雷除去へ海上自衛隊の派遣は必要ないのか。世界の米軍基地や米国民へのテロ攻撃もあり得よう。在日米軍基地や空港の警備強化も急ぎたい。」と述べた。