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世界史寸評
オルバーン失脚の世界的影響―ハンガリー選挙をめぐる報道より(その2)
2026年4月12日―18日
南塚信吾

3.トランプ政権への影響はどうか   

 オルバーンの敗北は米国のトランプ大統領に大きな影響を与えたはずである。オルバーンは、トランプとは対外政策においても、国内の体制整備策においても、共通するところが多かった。またオルバーンはアメリカの右翼に相当なテコ入れをしていた。それらがなくなったのである。トランプは、オルバーンの勝利を願うメッセージを送り、選挙中にヴァンス副大統領をハンガリーに派遣したほどである。読売新聞は、これは内政干渉のそしりは免れないと批判していたほどである(『読売新聞』)。

 「極右の権威主義者ヴィクトル・オルバーンは選挙に敗れた」。「次は11月、議会にいるトランプの追従者たちや『MAGA』の過激派たちの番だ。冬が来る」(Kassam)というのが、一般的な反応であろう。   

 ただ、オルバーンの敗北にトランプはさしたるコメントは出していない。4月14日に、「オルバーンの敗北はあまり気にしていない。新しい首相のピーター・マジャールは好きだ。彼はいい仕事をするだろう」と述べた。オルバーンについては、「もっともヴィクターはよき友人だった」、「かれは移民問題を扱うのにいい仕事をして、人々が国に入ってきて国をだめにするのを防いだのだ」とコメントしただけである(Reuters, April 15, 2026:Hungary Today,April 15, 2026)

 NYT Intは、「トランプ運動は味方を失った」という記事で少し踏み込んだ見方をしている。曰く、オルバーンはアメリカの右翼に大きな影響を与えてきた。トランプとMAGAはDNAを長らく共有してきた。反移民、メディア抑圧、出生率低下への懸念など。スティーヴ・バノンはオルバーンの事を「トランプの前のトランプ」と称したほどである。トランプの支持者の多くはオルバーンを同志と考え、いろいろな考えの生みの親とみなしてきた。タッカー・カールソン(アメリカの保守派のコメンテイター)のインタヴューで見られたように、オルバーンからインスピレーション、多くの教訓をもらってきた。だが、いまや、オルバーンの敗北はアメリカの共和党と右翼に警報を鳴らしている。ロッド・ドレア(キリスト教右派の作家)は、オルバーンと同じことをしていては、2028年の選挙で負けると考えている。今度はかれの敗北から教訓を得るべきだ。とくに経済の停滞と腐敗という点で。次の首相のマジャルも保守主義者だから、保守が退潮したわけではない。オルバーンは、16年の支配の中で、国民との接点をなくしたのだ。そこを教訓とすべきだというのである(Browning)。

 さらに、オルバーンの失脚は、トランプのEU内での影響力にも影響を与えるという。オルバーンの敗戦はアメリカのトランプの欧州右翼との関係を危なくしている。オルバーンがトランプに近く、選挙前にもトランプや副大統領のヴァンスから応援を受けたにも関わらず大敗したことを受けて、欧州の右翼はみなトランプとの関係を再考している。とくにトランプのグリーンランド政策やイラン攻撃が不評であった(Adghirni)。

 このように、アメリカの保守派はオルバーンの敗北から、教訓を学ぶように迫られている。反面、民主党はマジャルの勝利から教訓を得るべきだという議論もある。

4.EUとの関係はどうか  

1)EU側の歓迎

 オルバーンの敗戦を最も歓迎しているのはEU指導部であろう。これまで、オルバーン政権がロシアに対するEUの追加制裁や、ウクライナへの900億ユーロ(780億ポンド)の追加融資に拒否権を行使したことを受け、オルバーン政権とEUの対立関係は新たな低水準にまで悪化していた。その後、オルバーン政権がEUの機密情報をモスクワに提供したとの疑惑が浮上し、ブダペストとブリュッセルの間の緊張は頂点に達した。こういう状況にあったから、EUはオルバーンの敗北とマジャルの勝利を歓迎した。

 フランスのマクロン大統領、ドイツのメルツ首相、スペインのサンチェス首相、ポーランドのドナルド・トゥスク首相、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長らがマジャルの勝利を祝福することを表明した。フォンデアライエンは、4月12日、「今夜、ハンガリーで欧州の鼓動はより力強く響いている」と述べた。ただ、オルバーンと近い関係にあるとされてきたイタリアのメローニ首相は「友人のビクトル・オルバーン氏に対し、長年にわたる緊密な協力を感謝する」とねぎらいの言葉を投稿し、「今後も野党の立場から自国に尽くし続けるだろう」とした(「対立から結束へ」『朝日新聞』 2026年4月13日)。

 このように大体においてEUは歓迎しているが、マジャルはもろ手を挙げてEUに一体化するかどうかは不明である。かれはEUの対ウクライナ政策に全面的に賛成しているわけではない。マジャルはまた、EUの課す移民割り当てには反対し、国境のフェンスは維持することを公言している。かれの当面の狙いはオルバーンが民主的政治をしていないというので差し止められていたEUからの補助金を入手することである(Komuves)。

2)EU内のオルバーンの遺産

 オルバーンは、非リベラリズムを広めるため、国内では、研究機関としてドナウ研究所、教育機関としてマーチャーシュ・コルヴィヌス・コレギウムを作ったが、2022年にEUの中でも「MCCブリュッセル」というシンク・タンクを作り、ヨーロッパだけでなく世界中から非リベラリズムを研究する人を集め、発信していた。これはハンガリーのマーチャーシュから資金を受けていたが、マーチャーシュはハンガリーのMOLから資金をもらっていた。マジャルはこれらを解散すると宣言しているが、大統領のシュヨクが拒否するかもしれない。それに「MMCブリュセル」はかなりの人脈を作ってしまっている(Smialek)。それに、EU内には、ベルギーのデウェーフェル首相、ポーランドのナヴロツキ大統領、スロヴァキアのフィツォ首相、チェコバビシュ首相など、オルバーンに同調していた保守派が存在する。

 しかし、EUが少しは議論のできる場になったことは間違いなさそうである。

5.ロシアとの関係はどうか 

 オルバーンは、ロシアのプーチン大統領と関係が近く、EU加盟国の全会一致が必要な対露制裁やウクライナ融資などで再三、「拒否権」をちらつかせてきた。それゆえ、オルバーンの敗戦がロシアとの関係にどういう影響を与えるかが注目された。

 今回の選挙では、オルバーンを支持するロシアがSNSなどを通じて偽情報を拡散し、世論工作を仕掛けたと指摘されるが、これも内政干渉だと『読売新聞』は批判していた。

 ロシアへの影響という点では、オルバーンが負けても、ハンガリーとロシアとの関係が切れるわけではないだろうと言われる。エネルギー問題があるから、マジャルは「プラグマティック」に対応しようとしているし、ロシア側もそのようである(Nepszava Peszkov)。マジャルは現在80%をロシアに依存しているエネルギーの入手先を多様化すると宣言しているが、これには時間もかかるはずであり、「ハンガリーはモスクワと完全に手を切ることはできない」と考えられている(Flynn; Sonne)。

 また、ロシアのウクライナでの戦争について、ロシアのペスコフ大統領報道官は、選挙結果を受けてすぐに、「ロシアとウクライナの紛争の先行きとは何の関係もない」と主張した(「対立から結束へ」『朝日新聞』 2026年4月13日)

 ロシアも「プラグマティック」な関係で行こうと言っており、そういう関係がどうなるのか注目される。

6.ウクライナとの関係はどうか 

1)ハンガリー側から見ると

 ハンガリーとウクライナの関係はザカルパチアにいる16万人のハンガリー人マイノリティをめぐって、緊張しているが、オルバーンはそれを強調し、ウクライナのEU加盟への反対につないできた(Méheut)。マジャルもウクライナとの関係はウクライナ内のハンガリー人マイノリティの権利の回復次第だと言っている(Flynn)。マジャルは、ロシアへの傾倒が過ぎるのは批判したが、ウクライナ戦争については語っていない。またウクライナの早急なEU加盟には原則として拒否しているわけでないが、慎重だと観測されている(Méheut;Komuves)。

 Al Jajeeraは、反ウクライナだったオルバーンの敗北は歓迎している。というのは、トランプ―ネタニヤフ―オルバーン―プーチンと繋がっていた反EUの地政学が崩れたからである。この結果、ウクライナへの支援の障害が消え、イスラエルへの支援も消えたのだとみている。しかし、ハンガリーとウクライナの関係については、ロシアとのエネルギー問題があり、ウクライナの中のハンガリー人問題があるので、マジャルはウクライナを全面支持ではないだろうとみる。ただ、ウクライナへのEUの融資は認めるだろうと観測している(Ragozin)。

2)ウクライナ側から見ると   

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、マジャルがオルバーン前首相と同様に、同国への武器供与やキエフのEU加盟手続きの迅速化に反対する姿勢を継続すると表明しているにもかかわらず、ウクライナはハンガリーとの協力を進める用意があると述べた。「我々は、両国の利益のため、そして欧州の平和、安全、安定のために、会談や建設的な共同作業を行う用意がある」というのである(Kassam)。 

 たしかに、キエフにとってEU内の最も頑固な敵がいなくなった。EUからの900億ユーロのローンが可能になった。しかし、マジャルはウクライナの全面的な味方ではなく、EU内の他の指導者にもそれ以上キエフを支持することには懐疑的な人たちがいる。マジャルは、ウクライナへの軍事支援の拡大には慎重で、特にEUの早期加盟については反対している(Flynn)。

 Al Jajeeraは、反ウクライナだったオルバーンの敗北は歓迎しているが、まだヨーロッパには、ベルギーのデウェーフェル首相、ポーランドのナヴロツキ大統領、スロヴァキアのフィツォ首相、チェコバビシュ首相など、オルバーンに代わるウクライナ懐疑派がいるという(Ragozin)。オルバーンがいなくなってもこれは変わらないだろうというわけである。

7.イスラエルとの関係はどうなる

 オルバーンの敗北がもたらす影響は、イスラエルのネタニヤフ首相と、同政権の欧州における立場にも直ちに影響を及ぼしている。オルバーンは、欧州連合(EU)内でイスラエルにとって最も信頼できる同盟国としての役割を果たしていた。オルバーンとネタニヤフの政治的関係は、国家主権の重視、移民への敵意、そしてリベラルな国際機関への反対といった、共通のイデオロギー的基盤に根ざしていた(Palestine Chronicle, April 13, 2026)。

 オルバーンの敗北が、即座にイスラエルに対するハンガリーの敵対的な政策につながるわけではない。マジャルは、ガザ問題やネタニヤフ自身について、まだ明確な立場を打ち出していない。だが、ハンガリーは、イスラエルを標的としたEUの取り組みに対して反射的に妨害を行うことはもはやないと見られており、ガザ問題に関するより強固な共同の立場や、より広範な説明責任を求める措置への道が開かれたとされている(Palestine Chronicle, April 13, 2026)。Plestine Chronicleは、イスラエルのネタニヤフを押しているオルバーンが消えたので、安堵している。EUとして動いてくれることに期待しているわけである。 

8.中国との関係

 中国との関係については、NYTなどは語っていなかった。実はオルバーンは「東」への強い関心を持っていて、リベラルの支配する「西」とそうでない「東」との間の架け橋をするのが、非リベラル・デモクラシーのハンガリーなど「中欧」であると主張していたのであった。

9.世界の保守派とリベラル派への影響はどうか

1)保守派の動き

 読売新聞は、オルバーンは、移民やEUやウクライナなどを「仮想敵」とし、敵意や憎悪をあおってきた。同様の手法はハンガリー以外の欧州にも広がり、ドイツやフランスなどで「自国第一」を掲げる排外的なポピュリズム(大衆迎合主義)勢力を伸長させてきた。オルバーンの退陣が、欧州の極右勢力の伸長の変調につながるかどうかを注視する必要があるとする(『読売新聞』)。

 オルバーンの敗北は世界的な保守の動きに大きな意味をもつ。フィデス政権は、ドナウ研究所とマーチャーシュ・コルヴィヌス・コレギウムに世界中の保守派を集めて、支援していた。いまやそれはできなくなるはず。オルバーンのもとでは、ブダペシュトは祖国の政府ではのけ者にされた世界中の保守派のデズニーランドとなっていた(Goldberg  April 14)。オルバーンは、アメリカの保守派と繋がりがあり、彼らを支援していた。例えば、アメリカのキリスト教保守派のドレアをドナウ研究所のフェローに受け入れていた。

 NYTの一コメンテイターは、少なくとも過去20年間、世界的に見てリベラリズムに対する右翼の敵には活力とエネルギーがあったが、今や、現代ポピュリストの先駆者であるオルバーンも、その権化であるトランプも落ち目にあるという(Goldberg April 14)。そうかもしれないが、それでも、ポーランドのナヴロツキ大統領、スロヴァキアのフィツォ首相、チェコのバビシュ首相は保守派であることは無視できないはずではなかろうか。

2)リベラリズムが学ぶべきこと。

 NYTは、オルバーンの敗北からリベラリズムが学ぶべきこととして、保守派のコメンテイターの意見を載せている。

 第一の教訓は、ポピュリズムが台頭する状況下にある西欧の民主主義は、ある種の不安を抱くアナリストが示唆するよりもはるかに強靭であるということ。権威主義的な動きを見せる指導者がいることと、実際に権威主義国家であることとの間には極めて重要な違いがあり、前者の状況から後者へと至る道筋は、「専制政治」と書かれたスイッチを単に切り替えるような単純なものではない。

 第二の教訓は、ポピュリズムに対する最善の政治的対応は、民主主義の危機を理由に、いかなるものであれ人々に既成体制への支持を求めるのではなく、ポピュリズムの具体的な政策要求に対処することにある。

第三の教訓は、冷戦後の秩序の危機は、いわゆる「ポストリベラル」を標榜する知識人とは無関係に存在しているということ。ポピュリズムやナショナリズムという現象は、大量移民、出生率の急落、脱工業化、そしてデジタル化に伴うアノミーという時代に対する有機的な反応であり、保守派の知識人たちはこの反動に便乗してはいるが、彼らが生み出したわけではない。

 最後に、反民主的あるいは非自由主義的になり得るのはポピュリストだけではない。EUというリベラルな政治的枠組みでさえ、時に「民主主義の欠如」に侵されているといわれる。官僚階級が世論を無視し、国家主権を蹂躙するのである。欧州にもリベラリズムの名の下に「ソフトな専制」を行ったり、人権と人間の尊厳に対する冒涜を永続させたりしている諸政府があり、それと同時にポピュリストのオルバーンもいたのである(Douthat)。

 以上がNYTなどの論評である。オルバーンの退場とマジャルの政権発足ののち、数か月して、今回の政変の意味がより明確になってくると思わる。その時の観測はどうなるであろうか。注目しておきたい。

参考文献

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Dmitrij Peszkov: Soha nem voltunk barátok Orbán Viktorral, Nepszava, 2026.04.14
Donald Trump: Orbán Viktor a barátom volt, Nepszava, 2026.04.14
Így fogadták Bulgáriában a magyar választási eredményeket, Magyar Nemzet, 2026. 04. 15
「強権にノー、EU回帰へ=対ロ融和見直し―ハンガリー総選挙」,『時事通信』 2026年4月14日
「ハンガリー総選挙、オルバン首相の与党敗北 16年ぶり政権交代へ」 『朝日新聞』 2026年4月13日
「オルバン氏の退陣で何が変わる? ハンガリー総選挙、3つのポイント」 『朝日新聞』 2026年4月13日
「対立から結束へ ハンガリーの政権交代、欧州首脳が次々に「歓迎」」『朝日新聞』 2026年4月13日
「ハンガリー選挙 欧州極右伸長の流れ変わるか」『読売新聞』2026年4月16日

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Bottoni, Stefano, Orban’s Fall Is an Astounding Achievement, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Bottoni, Stefano, Orban’s fall is an astounding achievement, New York Times International Edition (以下NYT Int) , April 16, 2026
Breeden, Aurelien, Who is Hungary’s next leader? NYT Int, April 14, 2026
Broder, David, For Orban, Trump may be his ruin, NYT Int, April 10, 2026
Browning, Kellen and Goldmacher, Shane, MAGA Absorbs the Loss of Orban, a Kindred Spirit to Trump’s Movement, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Browning, Kellen and Goldmacher, Shane, Trump Movement loses a ally, NYT Int, April 15, 2026
Douthat, Ross , The Four Lessons Liberals Should Consider After Orban’s Defeat, NYT, April 18, 2026
  (国際版に再録)
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The Editorial Board, Here’s How to Defeat Trumpism, NYT, April 14, 2026
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  The Editorial Board, How to Stop a would-be autocrat, NYT Int. April 15, 2026
Escritt, Thomas, Simon, Zoltan & Kasnyik, Marton, End of Orban era in Hungary, JT, April 14, 2026
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  (国際版に再録)
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  Goldberg, Michelle, What Orban’s defeat means for the rest of the world, NYT Int, April 15, 2026
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Komuves, Anita, Once inspired by Orban, Magyar unseats him, JT, April 14, 2026
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Méheut, Constant, Kyiv hopes its nemesis in the E.U. is gone, NYT Int, April 15, 2026
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Simon, Zoltan & Escritt, Thomas, Vance picks fight with Europe over Orban in vote endorsement, JT, April 9, 2026
Smialek, Jeanna and Ryckewaert, Koba, Will Viktor Orban’s Legacy Lives On in Brussels, Even Without Him?  NYT, April 14, 2026
  (国際版に再録)
  Smialek, Jeanna and Ryckewaert, Koba, Populist vision lives on in Brussels think tank, NYT Int, April 16, 2026
Smialek, Jeanna, Orban Loss in Hungary Is a Big Moment for the E. U. Heres Why, NYT. April 13, 2026
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  Smialek, Jeanna, New leader in Hungary may bolster E.U. unity, NYT Int. April 14, 2026
Sonne, Paul, Hungary May No Longer Be Putin’s Ally, but It Can’t Afford a Full Break, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Sonne, Paul, Hungary can’t afford a full break from Moscow, NYT Int, April 17, 2026

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世界史寸評
オルバーン失脚の世界的影響―ハンガリー選挙をめぐる報道より(その1)
2026年4月12日―18日
南塚信吾

 2026年4月12日(日)に行われたハンガリーの国会選挙では、ヴィクトル・オルバーンの率いるフィデス(青年民主同盟)党が大敗し、ペーテル・マジャルの率いるティサ(尊敬と自由)党が地滑り的な勝利を得た。16年にわたって続いたオルバーン政権は終焉した。確定した結果によると、国会の議席199のうち、ティサは141議席を獲得し、フィデスは52議席にとどまった。

 一国の選挙がこれほど世界的に注目を浴びたのはまれであろう。この選挙は、ハンガリー国内だけでなく、アメリカのMAGA運動や世界中の極右勢力の強靭さを試す試金石として、世界中から注目された。彼らの多くはかねてよりオルバーンを模範として、その戦略を模倣しようとしてきたからである(Kassam)。 ニューヨーク・タイムズ(NYT)の国際版(NYT Int)やジャパン・タイムズ(JT)をみると、何度も全面を使ってオルバーン失脚の世界的意味を論じていた。オルバーン失脚の世界への影響はどうか。NYTとJTを中心に内外の報道を取り入れて議論を整理してみたい。

1.オルバーンはなぜ負けたのか

(1)オルバーンの敗因

1)経済不振と腐敗・縁故主義

 オルバーンの率いる右派ポピュリスト政権は、在任期間中、自らの権力を抑制していた権力分立の仕組みを着実に弱体化させてきた。具体的には、選挙法を自らの利益になるよう改正し、国内メディアの約80%を支配下に置くべく工作を行い、司法制度を再編した。(ガーディアン)16年に及ぶ長期政権を築いたオルバーンは、司法介入やメディア統制を通じ、権力を追求しつつ政敵を排除してきた(『時事通信』)。

 このように、オルバーンは、中央地方の政治・司法・文化の諸機関に自分の息のかかった人物を配置して、権力を固めたはずであるが、それでも選挙で負けたのである。

 その理由を読売新聞はこう伝えた。ハンガリーは、ロシア産エネルギーの輸入や、中国からの投資を頼りに経済成長を目指してきた。だが、国内総生産(GDP)成長率が2023年以降、3年連続で1%を下回った。1人あたりGDPはEU加盟国で下位にある。中露に依存し、国家管理を強化する手法が限界を迎えていたのは明らかだ。オルバーン体制で横行した汚職や縁故主義も、経済成長を妨げてきた要因といえる(『読売新聞』)。これは的を射ている。

 筆者の友人で、ハンガリーの著名な画家・イラストレーターであるフェレンツ・バンガが、2025年3月に日本へ来たときに、オルバーンの政治について聞いたことがある。かれは、①物価が高く、生活は苦しくなった。石油はあるが、とても高い。②小学校が教会に売却されて、半数は公立ではなく教会の経営になってしまった。だから教育が一面的になっている。③出版社がどんどんなくなり、経費を削減しようと、出版にさいしてイラストを入れなくなった。④身近にあった小さい商店が消えて、スーパーだけになった。⑤行政、メディア、教育・研究、病院などの管理職はすべてオルバーン派の人間になってしまった。⑥町には警官ばかりが目に付いてしまう。日本はとても少ないので驚きだ、などとオルバーンを批判していた。これが、ハンガリーの国民のレベルでの目線に近いだろう。

 要するに、経済と腐敗・縁故主義がカギであったようだ。ただ、この両者は因果関係にあったという指摘がある。政治での一党支配と家父長的な支配は、ハンガリーの19世紀以来の政治の伝統だから、それで批判が募ったということはない。そうではなくて、経済政策で、自分の周辺の人間に公的な金を流して太らせ、反面国民を貧困にした。特に中産階級が激減した(Bottoni)。

 これ以外に、アメリカのトランプ政権との絆が逆に作用したと指摘するものもある(Broder)。とくにイラン戦争はトランプ政権への評価を下げたようだ。

2)「ポピュリズムのパラドックス」 

 こういう国民を貧困にしたといった問題を、NYTはポピュリズムの問題として論じている。NYTは、ポピュリストがピープルの要求に答えられなかったのだという。「結局、右翼ポピュリズムのハンガリー人先駆者はポピュリストであることを完全にやめたのだ」。マジャルが批判したように、「オルバーンは何年もの間、ハンガリーの人々に関係する問題に注意を払ってこなかった。」「われわれは、かれが医療や教育や生活費について語るのを聞いたことがない」(Higgins)。

 オルバーンはプーチン(2019年)やトランプ(2016年)よリも早くに「リベラル・デモクラシーは盛りを過ぎた」と言った。しかし、かれは負けた。なにが起きたのか。それは政治の基本のことで、「選挙に勝つには人々に人気がなければならない」という基本が示されただけのことだ。日曜日に起きたことは、ハンガリー国民にイデオロギー的な地震や方向転換が起きたということではない。単に人間的なことである。国民は、しだいにおべっかと、大きな宣伝マシーンからの賞賛に甘やかされるようになった強いリーダーを倒したのである(Higgins)。

 オルバーンは「ポピュリズムのパラドックス」に陥って敗北したのだとする説もある。「ポピュリストのパラドックス」と呼ばれる、よく知られたパターンがある。一部のポピュリスト指導者は、「腐敗を一掃し、汚職と闘う」という公約を掲げて勝利を収める。しかし、一旦権力を握ると、彼らは汚職を防ぐための制度を徐々に弱体化させ、その汚職を利用して自らの支配を強固なものにしていくのである(Bennhold)。

3)政治家というよりは「興行主」

 最後に皮肉たっぷりの議論を「ウオール・ストリート・ジャーナル」が載せている。曰く、オルバーンを支持する米国の「オルタナ右翼」も、国際的なリベラル派のオルバーン批判者も決して、長年ハンガリー首相を務めた彼を真に理解していたわけではなかった。本当の独裁者であれば、自分の権力を脅かす選挙を回避あるいは制御する手段を見つけていただろう。オルバーンは結局、政治家というよりは興行主だった。移民、キリスト教、同性愛、世界主義的自由主義、国家主権にロシアなど、オルバーンはどこに熱い議論を巻き起こす争点があるかを知っていた。彼はそれを頻繁に強く刺激した。ナショナリスト的な保守派はそれを大いに喜び、世界主義的自由主義者は激怒した。その一方で、オルバーンは政治機構の構築に精を出したが、それは世界を変えることより、自分の権力を維持することを重視するものだった。

 過去16年の大半において、オルバーンの体制は機能してきた。彼が掲げた大義は、高齢化と人口減少が進むハンガリーにおいて、将来に不安を抱き、移民や文化的変容に脅威を感じる国民の共感を呼んだ。同時に、EUの世界主義的、脱国家的かつ脱歴史的なリベラル思想に対する彼の反対姿勢は、世界中で支持者を集め、それが彼の国内での地位強化に役立った。

 だが、オルバーンは建設者というよりエンターテイナーとして優れていた。広く称賛された彼の家族重視政策も、ハンガリーの人口減少を反転させることができなかった。有能な若いハンガリー人が西欧に移住する状況が続いた。汚職が広がる中、経済は停滞した。ハンガリー人はかつて旧ワルシャワ条約機構加盟国の住民の中でも最も裕福な部類に入っていた。だが現在では、ルーマニア人より貧しい。選挙区の恣意的な改定やメディア操作は、発想力に欠けるように見える指導部に対する国民の倦怠感の高まりを克服することはできなかった(Mead)。

 オルバーンもマジャルもイデオロギー的に大差がないことを考えると、このような見方もあり得るかもしれない。

(2)マジャルの勝因   

1)EUと縁故主義

 マジャルは、なぜ大勝したのか。鍵は、EUと縁故主義に主に求められている。マジャルは、ハンガリーとEUの緊張した関係を修復し、汚職を取り締まり、生活水準を引き上げ、長年放置されてきた公共サービスに資金を投入すると公約した(Kassam;Breeden)。マジャルは現在の体制とはきっぱりと決別すると断言し、とくに公的資金で私腹を肥やす連中は排除すると約束した(Goldberg April 13)と言われている。

 そのうえで、マジャルは独特の運動を繰り広げてきた。2年間にわたり、マジャルは急成長する自分の運動を全国の村々や町の広場、そして都市へと広め、長年にわたりハンガリーに蔓延していた縁故主義や汚職にうんざりしていたハンガリー国民を結集させてきた(Kirby)。私の友人で、元ハンガリー科学アカデミー総裁であった歴史家のベレンドUCLA名誉教授は、マジャルが全国の町や村を回って人々と直に接したことを重視している。もともとオルバーンは地方に強いはずであったが、そこを縁故主義や汚職を批判するマジャルに掘り崩されてしまったのである。

2)二つのポイント

 NYTの編集部はマジャルの選挙キャンペーンの二つのポイントを指摘した記事を載せている。

 一つに、生計に関する問題に焦点をあてたこと。ティサ党は、政府のサービスの非効率を批判、勤労家族の減税、医療の拡大、年金の増額、児童手当の拡大、学校の補助員の給料引き上げを公約、富裕税からの収入とEUからの基金で、これを賄うとした。数家族が国の半分を持っていると言われた。マジャルは、汚職問題を中心的争点とし、それとの関係で、ハンガリーの生活水準の停滞を取り上げたのだ。

 二つに、社会的進歩主義を採らなかったこと。マジャルは中道右派で勝利した。経済的には進歩主義だが、文化的には保守とは言わないが中道である。マジャルは、右派として愛国的シンボルを使った。国旗がその例だ。彼の名前も得している(=マジャルとはハンガリーのことである)。かれはナショナリストだと公言している。かれは農村部を回った。ウクライナのために軍隊や武器を送らないと約束した。LGBTQのデモには出なかった。移民については、オルバーンよりも厳しい規制を主張した。ハンガリー在住のアメリカの保守主義者ロッド・ドレアは、マジャルが勝ったのは、「少なくとも公的には、かれがオルバーンの支持するすべての事を受け入れたからである」という。マジャルは、不法移民に反対し、同性愛にも反対している。選挙は、中道右派と権威主義的右翼との争いだったのだ(The Editorial Board)。

3)「オルバーンでないこと」   

 マジャルの勝利は、イデオロギーや政策体系の故ではないとの声が強い。マジャルの勝利は、オルバーンとのイデオロギー上の隔たりを巧みに最小限にとどめつつ、自身の能力と誠実さに焦点を合わせたことにある(Mead)とか、マジャルは、オルバーンと同じような考えをする保守派であるが、かれはオルバーンほど好戦的でも断定的でもなく、自国ともEUとも仲良くやっていく「人間的な」ハンガリー人であることを約束したのだと言われた。そしてついには、マジャルは医療や教育やEU対策などについて詳しく語ったことはなく、かれの最大の強みは「オルバーンでないこと」だったのだ(Higgins)とされる。これがポイントかもしれない。

2.ハンガリーの国内政治はどうなる  

1)喜ぶ人たち

 『ガーディアン』は、オルバーンの敗北を喜ぶ国民の声を伝えている。「独裁政権や右派のイデオロギー、そういったものはすべて消え去り、私たちはより良い国を作るチャンスを得たのです」。「希望に満ちて、幸せです」。「これからの4年間が、過去16年間よりも良いものになることを心から願っています」。「今後4年間、ハンガリー国民は安全、平和、自由を享受でき、誰にも生活に干渉されることはないだろう」という声である(Kassam)。ハンガリーの地方都市に住むわたしの友人は、地方の文化の維持、育成に熱心に取り組んでいるが、彼は「これで、創造的な仕事ができるようになる」と喜んでいる。

2)そんなに喜んでいいのか

 たしかに、ティサ党が公約してきたように政府のサービスを効率化し、勤労家族の減税、医療の拡大、年金の増額、児童手当の拡大、学校の補助員の給料引き上げは実現していくだろう。富裕税を導入し、数家族が国の半分を持っているという汚職と縁故主義は一掃していくだろう。国民の生活水準の引き上げ、医療制度の改善も約束している。教育関係の改善も実行するだろう。また、対外的には、「同盟国からの信頼回復」や「脱ロシア産エネルギー」を目指し、EUとの関係改善に努めるとみられる。そして、オルバーンのように中国など「東」を重視するよりも、「西」へ回帰することを目指している。

 だが、マジャルはやはり保守派なのである。マジャルはかつてはオルバーンに刺激を受けた人物で、その後汚職問題などを機にオルバーンとフィデスに幻滅してそれを批判するようになった。しかし思想は保守なのである(Goldberg April 15)。マジャルは、難民受け入れには批判的である。また、LGBTQをオルバーンほど毛嫌いすることはないとはいえ、LGBTQには慎重である(Breeden)。対外的にも、ウクライナの「迅速なEU加盟」には反対の立場で、EUなどと一定の緊張関係が続く可能性はある(『時事通信』)。

3)もっと深刻に考える人もいる。

 「ハンガリーの今後の道筋は複雑なものである。フィデス党による経済界、メディア、行政、司法への支配は、広範囲かつ深く及んでいる」とみる人もいる(Kassam)。

 「オルバーンがいなくなってもハンガリーはまだむつかしい状態がつづく」とみるのは、選挙制度の問題があるからである。今回の選挙は独特の選挙システムのおかげである。ティサは投票の53%しか得ていないのに、議席は141も獲った。フィデスは49議席だが、43%も得ている。それだけ非リベラリズムの支持者がいるということだ。ティサの票には中道右派とリベラルと左派の票が混ざっているのであると言われる(Kisilowski)。

参考文献

Orbán Defeated: Netanyahu Loses Key EU Shield as Europe Reopens Gaza Debate, Palestine Chronicle, April 13, 2026
Dmitrij Peszkov: Soha nem voltunk barátok Orbán Viktorral, Nepszava, 2026.04.14
Donald Trump: Orbán Viktor a barátom volt, Nepszava, 2026.04.14
Így fogadták Bulgáriában a magyar választási eredményeket, Magyar Nemzet, 2026. 04. 15
「強権にノー、EU回帰へ=対ロ融和見直し―ハンガリー総選挙」,『時事通信』 2026年4月14日
「ハンガリー総選挙、オルバン首相の与党敗北 16年ぶり政権交代へ」 『朝日新聞』 2026年4月13日
「オルバン氏の退陣で何が変わる? ハンガリー総選挙、3つのポイント」 『朝日新聞』 2026年4月13日
「対立から結束へ ハンガリーの政権交代、欧州首脳が次々に「歓迎」」『朝日新聞』 2026年4月13日
「ハンガリー選挙 欧州極右伸長の流れ変わるか」『読売新聞』2026年4月16日

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Bennhold, Katrin, Hungary’s Populist Paradox, New York Times, (以下NYT), April 14, 2026
Bottoni, Stefano, Orban’s Fall Is an Astounding Achievement, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Bottoni, Stefano, Orban’s fall is an astounding achievement, New York Times International Edition (以下NYT Int) , April 16, 2026
Breeden, Aurelien, Who is Hungary’s next leader? NYT Int, April 14, 2026
Broder, David, For Orban, Trump may be his ruin, NYT Int, April 10, 2026
Browning, Kellen and Goldmacher, Shane, MAGA Absorbs the Loss of Orban, a Kindred Spirit to Trump’s Movement, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Browning, Kellen and Goldmacher, Shane, Trump Movement loses a ally, NYT Int, April 15, 2026
Douthat, Ross , The Four Lessons Liberals Should Consider After Orban’s Defeat, NYT, April 18, 2026
  (国際版に再録)
  Douthat, Ross, What liberals should learn from Hungary, NYT Int, April 21, 2026
The Editorial Board, Here’s How to Defeat Trumpism, NYT, April 14, 2026
  (国際版に再録)
  The Editorial Board, How to Stop a would-be autocrat, NYT Int. April 15, 2026
Escritt, Thomas, Simon, Zoltan & Kasnyik, Marton, End of Orban era in Hungary,  JT, April 14, 2026
Flynn, Daniel, Dysa, Yuliia & Bayer, Lili, Hungary vote removes Kyiv’s staunchest foe in EU, JT, April 15, 2026
Goldberg, Michelle, He Was ‘Trump Before Trump.’ Now He’s in Trouble. NYT, April 11, 2026
  (国際版に再録)
  Goldberg, Michelle, Orban was “Trump before Trump”. Now he’s finished, NYT Int, April 14, 2026
Goldberg, Michelle, What Orban’s Defeat Means for the Rest of the World, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Goldberg, Michelle, What Orban’s defeat means for the rest of the world, NYT Int, April 15, 2026
Higgins, Andrew, In Hungary, a populist lost his popularity, NYT Int, April 15, 2026
Jakes, Lara, 4 Takeaways From Viktor Orban’s Defeat in Hungary’s Election, NYT, April 13, 2026
Kassam, Ashifa and Garamvolgyi, Flora, Hungarian opposition ousts Viktor Orbán after 16 years in power, The Guardian, April 13, 2026
Kirby, Paul, Orbán era swept away by Péter Magyar’s Hungary election landslide, BBC April 184 2026
Kisilowski, Maciej, After Orban, Hungary faces an even harder battle, JT, April 16, 2026
Komuves, Anita, Once inspired by Orban, Magyar unseats him, JT, April 14, 2026
Landler, Mark , Orban’s Defeat Punctures Europe’s Far Right, but Also Offers It a Road Map, NYT, April 16, 2026 (Updated April 21)
Mead, Walter Russell, The Curtain Falls for Hungary’s Orbán, Wall Street Journal, April 14, 2026,
Méheut, Constant, Kyiv hopes its nemesis in the E.U. is gone, NYT Int, April 15, 2026
Ragozin, Leonid, Orban was defeated in Hungary, but Orbanism lives on, Al Jajeera, April 13, 2026
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Smialek, Jeanna and Ryckewaert, Koba, Will Viktor Orban’s Legacy Lives On in Brussels, Even Without Him?  NYT, April 14, 2026
  (国際版に再録)
  Smialek, Jeanna and Ryckewaert, Koba, Populist vision lives on in Brussels think tank, NYT Int, April 16, 2026
Smialek, Jeanna, Orban Loss in Hungary Is a Big Moment for the E. U. Heres Why, NYT. April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Smialek, Jeanna, New leader in Hungary may bolster E.U. unity, NYT Int. April 14, 2026
Sonne, Paul, Hungary May No Longer Be Putin’s Ally, but It Can’t Afford a Full Break, NYT, April 13, 2026
  (国際版に再録)
  Sonne, Paul, Hungary can’t afford a full break from Moscow, NYT Int, April 17, 2026

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「世界史の眼」No.74(2026年5月)

今号では、南塚信吾さんに、「幕末に於ける対外認識―レザノフ事件とモリソン号事件の影響(その2)」をお寄せ頂きました。(その1)はこちらです。また、南塚信吾さんには、昨年みすず書房より刊行されたフィリップ・テーア『東欧の体制転換と新自由主義―1989年以後のヨーロッパ』の書評もしていただいています。

南塚信吾
幕末に於ける対外認識―レザノフ事件とモリソン号事件の影響(その2)

南塚信吾
書評:フィリップ・テーア『東欧の体制転換と新自由主義』福田宏ほか訳 みすず書房 2025年

フィリップ・テーア(福田宏ほか訳)『東欧の体制転換と新自由主義―1989年以後のヨーロッパ』(みすず書房、2025年)の出版社による紹介ページはこちらです。

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書評:フィリップ・テーア『東欧の体制転換と新自由主義』福田宏ほか訳 みすず書房 2025年
南塚信吾

 本書のドイツ語の原題は『古い大陸における新しい秩序―新自由主義の歴史』である。本訳書のタイトル『東欧の体制転換と新自由主義』から想像されるような1990年前後の「東欧の体制転換」に限られた議論をしているのではないが、議論の中心はそれには違いない。著者は、2010年からウイーン大学の教授で、2020年にできた「転換研究センター」の長を務める。

 本書の章立てを並べても話の構造は分からないので、訳者自身の読み方に従って、書評をしていきたい。

1.1989年以前

 本書は、1989-91年の前に、ヨーロッパの東西において、同じように新自由主義的な転換を迎える素地が準備されていたと主張する。つまり、西欧では、80年代に福祉国家の改革は失敗し、サッチャーのような改革派が新自由主義の方向を取った。一方、東欧では、80年代に国家社会主義の改革を目指す動きがあった。東欧諸国の人びとは、冷戦研究に長らく影響を与えてきた全体主義理論がいうようには、強制的に同質化され、おびえて暮らしていたわけではなく、社会主義の体制を改革しようという動きがあった。しかし、その改革はうまく行かず、結局、新自由主義の方向に動いていった、というのである。

 これは確かにそうだが、東欧では、ソ連のゴルバチョフが東欧支援を停止せざるを得なくなったことの影響、西側で作られた新自由主義の考えがIMFなどによって東欧に植え付けられた経緯などは、もっと考慮しなければならないのではなかろうか。

2.1989-90年代:新自由主義化の第一波     

 1989年にポーランド、ハンガリー、ブルガリア、チェコスロヴァキア、ルーマニアの諸革命、ベルリンの壁崩壊、そして1990-91年に東ドイツの終焉、ユーゴスラヴィアの解体、アルバニアの体制崩壊、ソ連の解体が起きた。本書はまず、このような諸変革によって単一民族の国民国家が形成されたという。それは19世紀後半以来の国民国家形成をいっそう推し進めた国民国家形成の新時代が到来した。単一民族化の原則はこれまでより強かったという。

 東欧の体制転換を本書は「革命」と捉えている。ただ、本書は、1989年は一貫して革命と言っているが、1989-91年全体では「大変革」と言ったり、「革命」と言ったりしていて、読者には混乱させられる。ともあれ、1989―91年は、当時においてはだれも「革命」とは言っていなかった、「革命」はあとから名付けられたのだという。

 諸革命の結果、ヨーロッパでは諸革命の本当の新しさはそれが非暴力的に展開され、「交渉による革命」として進められた点にある。この非暴力性はそれまでのどの革命にもなかったという。そういう革命はいかに展開したか。本書は、旧来の国家社会主義はまだ意味があって、体制内の反対派はその改革を考えていたが、それが実現しないうちに、新自由主義が支配的になっていったと見ている。  

 こうして、東欧での新自由主義化の第一波がやってきた。本書は、東欧のなかでも、中東欧諸国(ヴィシェグラード諸国)と南東欧と旧ソ連を区別している。中東欧では1989-90年に新自由主義化が始まり、南東欧とロシアでの新自由主義化は1990年代半ば以降という。この第一波で、民営化、規制緩和、市場化が行われるが、民営化について言えば、

 この時期には、国家が統制した企業の民営化と郵便・通信・エネルギーなどの民営化が行われた。評者から見ると、90年代初頭の東欧での農業の変革問題が重視されるべきなのではないかと思われる。ポーランドを除いた東欧での生産協同組合の解体、土地の私有化が持ったインパクトは大きかったはずである。

 本書は、東欧での変化は西側世界に種々の影響を及ぼしたという。とりわけ「市民社会」という概念は東から西へ伝播した例であると指摘する。だが、評者は、「市民社会」論は、新自由主義とともに、西から来たのではないかと思っている。

 しかし、総じて西は東の転換には無反応であった。東欧の転換は、「鉄のカーテンの東側だけで生じた文字どおり片面的な革命」であった。西の平和運動や環境運動の活動家たちは動かず、チャンスが活かされなかった。左派の知識人も東欧の革命に懐疑的だったという。その間に、自由は市場での自由になってしまって、種々の改革運動は消えてしまった。そして、西も東も新自由主義が覆うことになった。

3.2000年   

 本書は、2000年ごろに東欧には新自由主義化の第二波がやってきたと見ている。西から金融セクター、不動産への外資が広まり、老齢年金や健康保険などの民営化が行われた。中東欧全体に新自由主義が浸透して、民主化が成功し定着した。南東欧と旧ソ連諸国は新自由主義化の遅れを取り戻したとされる。

 ここで、本書は、新自由主義の四つのパターンを見ている。

  1. 福祉国家的な要素を残した新自由主義体制―ヴィシェグラード諸国
  2. 明確な新自由主義体制―バルト諸国と南東欧
  3. ネオーコーポラティズム型―スロヴェニア
  4. オリガルヒ型―旧ソ連諸国

 旧ソ連では国家資本主義の体制ができたが、それは、「権威主義体制の枠組みに合うように調整された新自由主義のハイブリッド」であったという。

 こういうパターンの違いはあったが、総じて、東欧では豊かな都市と貧しい地方の格差が拡大したことを本書は指摘している。

 だが、本書は、東欧諸国のEU加盟は、この格差を縮小するのを助けたという。2004年と2007年に中東欧、南東欧はEUに加盟したのである。EUは投資をして、東部を飛躍させ、新自由主義化の第二波による格差拡大を緩和させたというのである。ただ、旧ソ連諸国では大衆とオリガルヒとの格差は拡大した。

 ヨーロッパの東西で言えば、2008年までに、東のEU新加盟国は西の既加盟国の経済水準に近づいたとされる。ヨーロッパ全体が新自由主義の下で、経済成長をするようになったのである。その中で、1990年以後の新自由主義的改革の中で主に苦しんだのは、東欧では、高齢者と年金受給者、南欧(イタリアなど)では若い世代であったと、本書は指摘する。だが、本書は農村を見ていないようだ。

4.2008―09年:金融危機  

 本書は2008年のリーマン・ショックに始まる金融・株式市場の危機を、東欧における新自由主義の危機ととらえている。この危機の中で、西欧の投資家による資本の引き上げが興り、国家予算が危機に瀕してIMFが出動することになった。この2008―09年の危機は、EU新加盟国と旧ソ連諸国に、ドイツやオーストリア以上に強力な打撃を与えた。そして、このグローバルな金融・財政・経済危機はEU新加盟国の既加盟国との経済格差の縮小傾向を突然終わらせたのだった。

 この危機への対応を本書は次にように分類している。

  1. 国家支出増で対応―ドイツ、オーストリア、ポーランド、スロヴァキア
  2. 新自由主義型―バルト諸国、南東欧
  3. 場当たり的―ウクライナ
  4. 新自由主義からの離脱―ロシア「国家資本主義」ほか

 ただし、ロシアについては、新自由主義からの離脱と言っても、完全な離脱ではないとしている。チェコやハンガリーはどこに入るのだろうか。

 本書は、2008年以降、ほぼすべてのEU新加盟国は、既加盟国より深刻な不況に陥ったが、速やかに危機を克服したという。それに比べ、南欧諸国(イタリア、ギリシア)は回復が大幅に遅れた。だからイタリアでは、左右のポピュリストが台頭した。

 この際、東部ヨーロッパでは、危機への対応として、大規模な労働移民が起き、これが景気後退の影響を緩和したという。1990年代にはポーランド人の移民が多かったが、2008年以後は、ルーマニア、ラトヴィア、リトアニアなどからの移民が多かったのである。

 この危機が克服されるにつれ、EUをさらに東へ拡大するよう働きかけが行われた(誰によってかは明記されていない)。その例が、2014年のウクライナの「オレンジ革命」であったという。この時、ウクライナでは「民主的に選ばれた」大統領ユーシェンコはEU加盟を打診した。だが、EUは「距離」を取った。EUは無理解だったと本書はいう。ついで、2013-14年にウクライナでは「本当の意味での革命的な状態」がやってきた。この革命運動(マイダン革命―評者)によって、ウクライナでは「持続的な民主主義」が確立したが、しかし、クリミアがロシアに併合され、東部ウクライナが不安定になって、革命に悲劇的な結果をもたらしたと、本書は見る。だが、本書は、ウクライナのEUへの正式加盟の選択肢を排除すべきではないという。「国全体がヨーロッパに位置し、民主的に統治され、かつEUへの加盟を望んでいるのであれば、その国家を拒絶する説得的な理由は何もない」というのである。

 ここに著者の目線がはっきりと示されている。「民主的に選ばれた」とか「持続的な民主主義」が確立したというのは、どうだろうか。例えば、マイダン革命がアメリカの「関与」したクーデタであることは、オバマ自身が認めていることである。ともかく、新自由主義を東方へ広める動きは、停滞した。

5.2016年以後:新自由主義化の停滞 

 新自由主義が深刻な社会的・地域的格差を生んだ。そのために2016年に「反自由主義的転回」が起きた。本書は、新自由主義秩序によって特に悪影響を受けた人びとの反抗が反映したのが、2016年のイギリスのEU離脱(ブレグジット)であり、アメリカ大統領選でのトランプの当選であったという。ハンガリーのオルバーンは「非リベラル・デモクラシー」を唱えて、新自由主義に対抗し始めた。これらに見られるような動きによって、本書は、この時期までに新自由主義化は「停滞」し、まもなく新自由主義と大転換の時代は「終焉」を迎えたという。本書は「停滞」といい「終焉」というが、両者はあまりきちんと整理されていないように思われる。

 本書は、この2016年の「反自由主義的転回」によってもたらされた「一時代の終焉」がパンデミックによって改めて示されたという。パンデミックは新自由主義的グローバル化に根源的な批判を突き付けた。それは、一つには、自然への容赦のない搾取への批判であり、二つには、格差の拡大への批判である。

 本書は、2022年2月24日に始まるロシアのウクライナでの戦争は、「ウクライナに対してだけでなく、自由なヨーロッパ、西側、さらには1989年の諸価値に対する戦争」であるという。しかし、他の諸事件の場合の分析と違って、本書はこの戦争の始まる過程の分析をしていない。新自由主義を東へ進めようとしたことへのロシアの反発は考慮されていない。

 ともあれ、本書は、この結果、新自由主義的秩序はさらに弱体化され、新自由主義的グローバル化は「終焉」したという。ただ本書は、ヨーロッパの新自由主義化をポジティヴに評価し、そのマイナス面は改革で直せるという立場を取っているようである。

 このあと世界はどこへ行くのか。本書はこう見ている。

「ロシアや中国によって喧伝される多元的世界秩序は、寂肉強食や暴力、勢力圏を求めての武力闘争によって特徴づけられるものとなるだろう。これは、19世紀における帝国主義の時代への逆戻りとなるかもしれない。だからこそ西側は、ウクライナがこの戦争に勝利すべく文字通り全力で支援しなければならない。1989年における民主革命の遺産を守ることが重要である。」

 現在の世界の情勢を見ていると、「19世紀における帝国主義の時代への逆戻り」をしているのは、アメリカ、イスラエルではなかろうか。「1989年における民主革命の遺産」とは、新自由主義的グローバル化のことだろうか。しかし、それは「終焉」したと言っているはずであるが、まだ「守る」べき遺産なのだろうか。

 本書では、多くの歴史的事象にかなり細かい周到な検討がされている。しかし、そういう検討がなされていない事象も散見される。それだけに、本書を素材にさまざまな議論をすることができそうである。

(「世界史の眼」No.74)

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