1. ブラウンの歴史的評価の準備が整う
ついにブラウンによる初のビッグヒストリーの通史が邦訳された。これで彼女のビッグヒストリーに関する主要著作が出揃ったことになる。シンシア・ストークス・ブラウン(1938–2017)は長年カリフォルニア・ドミニカン大学(Dominican University of California。2000年にDominican Collegeから改称。Dominican Universityとは別の大学であることに注意)に勤めたが、2001年に同大の常勤職を退いた後、晩年の十年間に三度(みたび)ビッグヒストリーの通史を書き残した。
(1)単著『ビッグ・ヒストリー』(原書初版2007年・新版2012年、邦訳2026年)
(2)共著『ビッグヒストリー』(原書2013年、邦訳2016年)
(3)単著『ビッグバンからあなたまで』(原書2016年、邦訳2024年)
2007年に初めて自分で書き上げた通史が本書である。
2010年に同大は新入生に対しビッグヒストリーを必修化したことで注目を集めた。
2013年にはデイヴィッド・クリスチャンとクレイグ・ベンジャミンと共著で大学生向けのビッグヒストリーの教科書『ビッグヒストリー』(邦訳は明石書店)を上梓した。これが彼女にとって二冊目の通史となる。
この共著も入れると彼女にとって三冊目の通史であり、単著としては二度目の通史となる『ビッグバンからあなたまで』(邦訳は亜紀書房)が図らずも最後の著作となった。
今回ブラウンが初めてものしたビッグヒストリーの通史が日本で刊行される最大の意義は、上記の既刊の邦訳二冊と併せて、日本語でブラウンの変遷を追い、彼女の仕事を評価するための基盤が初めて整ったということだろう。
生きている人物は評価が難しい。これからの行動や著作によって評価が変わりうるからだ。対して、物故した人物は動かないので業績が固まっている。全生涯とその帰結を見渡した上で、歴史的に評価を行う営みは、その対象となる人物が没してから始まるのだ。
今、私たちはブラウンが故人であるがゆえに、その生涯の到達点から過去の全著作を見渡すことのできる時点に立っている。すなわちビッグヒストリーに限って言えば、本書が初期、次に出た共著が中期、遺著が晩期のブラウンのスタンスを表していると見ることができる。
2. 「複雑さ増大の敷居」の良し悪し
本書に見られる初期のブラウンの叙述が、中期・晩期のそれと明らかに異なる点は、宇宙史・地球生命史・人類史を貫く根底的パターンである「複雑さ増大の敷居」(thresholds of increasing complexity)を採用していない点にある。
ハーヴァード大学で「宇宙進化論」(Cosmic Evolution)の名のもとにビッグヒストリーを講じた宇宙物理学者のエリック・チェイソン(Chaisson 2001)は、宇宙から地球を経て私たちに至る歴史には、「複雑さの増大」という一貫した傾向が見て取れることを指摘した(とはいえ、そのような一貫した傾向が見て取れる惑星を、私たちは地球以外に知らない点には留意が必要である)。
これに触発を受けたクリスチャンは、米国のサンディエゴ州立大学でビッグヒストリーを教える際に、ビッグバンから今に至る歴史を区分けする目安として、「敷居」という時代区分を導入し、それは2008年に発売された彼のDVD講義『ビッグヒストリー―ビッグバン、地球上の生命、人間の台頭』(未邦訳)で公にされた。それを見たビル・ゲイツが感激し、ビッグヒストリー・プロジェクトが立ち上がるのである。当然、「複雑さ増大の敷居」は同プロジェクトの骨組みともなっている。
このように、「複雑さ増大の敷居」はビッグヒストリーを教える上で便宜的に導入されたもの(教授法の一つ)であるが、その利点は、宇宙史から人類史に至るまでを一気通貫する統一的視座から語ることを可能にしてくれるところにあった。
もちろんクリスチャンにせよ、ブラウンにせよ、このような統一的・一貫的視座を初めから持っていたわけではない。本書の「2012年版への序文」において、ブラウンが同書はビッグヒストリーに通底するパターンを提示していないと述べているのはそのためだ。
ビッグヒストリーを人間史に自然史を付け足した以上のものにすることを望んでいた2000〜2010年代のビッグヒストリアンたちにとって、それを可能にしてくれる「複雑さ増大の敷居」は願ってもないものであった。かくて複雑さへの着目は一世を風靡する。
とはいえ、「複雑さ増大の敷居」という時代区分に基づく限り、ビッグヒストリーを描く際の構成は、ある程度似たり寄ったりになってしまう点は否めない。“複雑性ブーム”がひと段落し、その恩恵ばかりでなく弊害も目につくようになった今日から見ると、そのブームに染まる前のビッグヒストリアンたちの著述に、むしろ個性や新鮮さを覚えるのだ。
3. 本書『ビッグ・ヒストリー』の構成
本書はシンプルな二部構成となっている。
第I部「時空間の奥行き」は、宇宙が始まってから、太陽と地球が生まれ(第1章)、生命が登場し、進化と絶滅を経て(第2章)初期の人類が登場し(第3章)、彼らが狩猟採集をもとにした高度な社会を営む(第4章)ところまでを描く。
第II部「温暖な1万年」は、人類の一部がアフロ・ユーラシアで農耕畜産へと移行し(第5章)、最初の都市を建設し(第6章)、都市生活のもたらす苦悩に応じて救済型の宗教が出現し(第7章)、それと相まってアフロ・ユーラシアの大部分を包摂する通商網ができ(第8章)、並行して南北アメリカでも農耕文明が発達するさま(第9章)を描く。次いでモンゴル帝国などによるアフロ・ユーラシアの統合(第10章)、西欧諸国による二つの半球の統合(第11章)が工業化につながるさまを描き(第12章)、「成長の限界」に突き当たる今日の状況を見据えつつ将来を展望する(第13章)。
第II部は概ね通常歴史の授業で扱われる範囲と重なっており、第I部はその前史に当たる。長らく教員志望の学生たちに歴史を教えてきたブラウンにとって、第II部は慣れ親しんだ内容だろう。対して、おそらくブラウンがもっとも勉強を要し、書くのに苦労したのは第1部であると思われる。本書が二部に分かれているのは、そういう実際的な理由からだろうが、今から見ると、素朴ながらも思い切った構成にも感じる。
読み味としては、第I部の初めの2章については散漫な印象が否めないものの、第3章「ヒトの登場」に入ると、肩の力が抜けたのか筆の運びが変わってくる。第II部に至っては、ブラウンの世界史の講義を受けているような気がしてくる。そこに奴隷制や人種主義についての記述を端的に織りこむ手さばきは、米国の公民権運動史をもう一つのライフワークとしてきたブラウンならではのものだろう。
それでは第I部と第II部を通読して見えてくるものは何であろうか。これは本書全体の意義に関わる話である。ブラウンが強調するように、私たちの世界と私たち自身を理解するためには文字記録のない歴史にも目を向ける必要があると言うならば、文字記録のない歴史(第I部)を見ることで文字記録のある歴史(第II部)に対する見方が変わらなければならない。それがないならば、両者を通観する必要はなく、畢竟、ビッグヒストリーなぞあってもなくても同じということになるからだ。
これに対する著者の応答は、文字通りには「地球の物語とそこに住まう人間の物語を結合してみたときに私が見出したのは、人々が子孫を増やし続けようとして取る行動は、地球の環境とその生命体を深刻な危機に晒してきたということだった」(iii頁)ということになろう。とはいえ、ここで指摘されていること自体は、人間の歴史のみに着目した場合にも気づきうることであり、人間以前の歴史を持ち出す必然性や説得性に欠ける。
よって評者としてはむしろ「地球はそこに生息するいかなる生命に対しても、長期的かつ永続的な条件を提供してはいない」(32頁)という地球生命史の現実を踏まえると、「地球が私たちに服従を強いる前に、この惑星と和睦する」(367頁)ことが不可欠なのだという点こそが、人間以前の歴史なくしては至れない認識であると指摘したい。
4. 〈環境と宗教の変化の連動〉は類書にない特徴
次に、以上の背景と概要を踏まえた上で、本書の特徴を考えたい。結論から述べると、既訳の類書にはない本書の真の特徴は、「人間の歴史以降について、政治や経済、環境等に関する〝外形〟的な記載が中心で、思想や観念、宗教や世界観等の変化や革新についての論述がうすい」というビッグヒストリーへの不満(広井2021: 128)に応える内容を含んでいる点にある。というのも、本書は環境の変化に伴う意識や信仰の変化に随所で言及しているからである。評者にとってはそれが一番読んで面白い部分であった。
例えば、地球は1万7000年ほど前から1万年前にかけて温暖化し、地表を覆っていた多くの氷河が解け、海水面が140メートルも上昇した。これに伴い、世界各地で海岸線と陸橋の水没が起こった。大規模な洪水は8000年前ごろまで続いた。人間の祖先は何千年もの間、洪水を経験し、それが数多の洪水神話に刻まれているというのである(92–94頁)。
ブラウンは人間の主たる生業が狩猟採集から農耕畜産に移行すると、意識や信仰のあり方も変わったと言う。狩猟採集民は巨大な捕食獣に囲まれて生きており、その生活は不安定で恐ろしいものであった。そのような状況下では野生動物を鎮めることに焦点が置かれたが、農耕に移居する生活では生命そのものの源に敬意を表し、その助けを願うことに焦点が移った。精霊を崇めるアニミスティックな信仰から豊穣の地母神を崇めるような信仰への移行である。同時に人々は森林の伐採や野獣の家畜化について相反する感情を抱き、これで良かったのかと自らを疑うようにもなった。ギルガメシュ叙事詩やアダムとイヴの失楽園の物語には、そうした葛藤や嘆きが残響している(88、124、129–130、180頁)。
ブラウンの筆はさらに「枢軸時代」と言われる時期の変化に説き及ぶ。人々が小さな農村を離れ、人口の集中する都市で暮らすようになると、新たな種類の宗教が現れた。都市はその繁栄期にあっても不安定で不公正であった。また都市の暮らしはそれ以前に住んでいた村の慣習に反する面があった。選民であっても、都市の暮らしに同化するのか、元いた村の慣習を守るのかという選択を迫られた。都市の中では満ち足りた生活をかなえることが難しいと悟った人々にとって、来世や天国など現世を超越した救済を約束する新たな宗教が慰めであった。何らかの宗教共同体に属することは、村での暮らしの特徴であった相互扶助の機会を人々に取り戻させた。世界各地で進んだ都市化は、それを補完する救済型宗教の普及と結びついていたのである(180–181、210頁)。
本書では他の箇所でも宗教にふれているが、個人的に一番面白く、本書の読みどころと感じた部分は以上である。
ちなみに当初、ビッグヒストリーの著作の多くにおいて、思想や宗教の扱いが薄かったのは、学問上の理由というよりは、今なおインテリジェント・デザイン論などが影響力を持つ米国にあって、新興のビッグヒストリーが知識人からの信頼を得るには、「科学の仮面をかぶった宗教」、すなわち疑似科学との印象を持たれないようにすることが先決であり、そのためには思想や宗教を強調しないほうが無難であるという政治的・戦略的判断が影響したと評者は聞き及んでいる。
もちろん、事はそう簡単でなく、ビッグヒストリーの通史の多くが物質の組み合わせによる複合・複雑化や生物の身体的進化には注目しても、意識や精神となるとほぼ人間の話に終始し、生命史全体における知覚や意識、知性の進化には無関心になりがちな点を思うと、これは方法論的物質主義と人間中心主義の問題でもある。
5. 本書の学説史上の意義
最後に、評者の研究関心の一つであるビッグヒストリーという分野の歴史ならびにその学説史の上から、本書の意義を二点挙げて終わりたい。
一つは、ビッグヒストリーという名称は1991年にクリスチャン(Christian 1991)が『ジャーナル・オブ・ワールドヒストリー』誌上で提唱して以降、広まったものであるが、ビッグヒストリーの取り組みやそれに類するものは、それ以前にも以後にも世界各地に存在した。それらを掘り起こし、22世紀以降へ向けビッグヒストリーの思想史を再構築することが評者の研究課題の一つである。
その点から見ると、本書ではビッグヒストリーの先駆者およびその業績として、マリア・モンテッソーリのコスミック教育(その中心となる著作は『人間の可能性を伸ばすために』として邦訳されている)、クライブ・ポンティング『緑の世界史』、ラリー・ゴニック『マンガ版 地球の歴史』(原題は本書にある通り『マンガ宇宙の歴史』)、エリック・シュルマン『時間の簡潔な歴史』(未邦訳)と複数のものが挙げられている点が参考になるし、シュルマンの著作以外は日本語でも読める。翻訳大国にいるありがたみを感じる次第である。
もう一つは、一般に「産業革命」と呼ばれる変化を、ビッグヒストリーの中にどう位置づけ理解するかをめぐり、クリスチャンとブラウンの間には実に面白い対照と交錯が見られるが、そのことが本書によって日本の読者にも見えやすくなったということである。冒頭で言及した初期・中期・晩期の順に説明しよう。
(1)初期の段階では、クリスチャンもブラウンも「複雑さ増大の敷居」という時代区分を用いていなかった。
クリスチャンは、『時間の地図』(未邦訳)において、西欧では18世紀から19世紀前半に近代に至る敷居がまたがれたとし、それを経済・政治・文化が三位一体をなす革命と捉えた(Christian 2004: 437–438)。「私たちはこの変容の真っ只中にいるため、その特徴を客観明朗に見てとることは難しい。ゆえに、それを記述するのに『近代革命』(Modern Revolution)という曖昧な呼び名でよしとしたい」(Ibid.: 335、評者訳)とクリスチャンは書いている。彼にとって産業革命はこのより大きな革命の経済面のみを指す語であり、政治面ではフランス革命が、文化面では科学的態度の普及がその変化を代表するものであった(Ibid.: 437–438)。
他方ブラウン(本書第12章)によれば、1750年頃にイングランドで始まった、化石燃料、工場制度、製造経済への転換は、ヨーロッパ社会単独ではなくアフロ・ユーラシアと両アメリカの交流がもたらした地球規模の現象であり、それには前段としてアフロ・ユーラシアが統合され、次いで東西の半球が互いに結びつくことが必要であった。ゆえに、このように長い緩やかな変化を指すには「産業革命」よりも「工業化」(industrialization)という言い方が相応しいと言う。
両者を比べると、ブラウンは工業化を通常より長い時間軸の中に位置づけ、クリスチャンはそれをより広範な社会の変化の中に位置づけたと言える。
(2)中期はクリスチャンとブラウンがベンジャミンを含め合同で大学生向け教科書『ビッグヒストリー』を作った時期である。ここで大事な前提は、クリスチャンがその前に「複雑さ増大の敷居」という時代区分を導入し、本書の改版時にはそれに従わなかったブラウンも、それを受け入れ、三人の共著がこの時代区分に沿って書かれたということである。
それでも、この教科書は章ごとに起草者が異なるため、よく読むと、起草者によるスタンスの違いが整合されないまま残っている(注)。
この共著において、共通暦1000〜1700年を扱う第10章はクリスチャンが起草したものであるが、同章を読むと「第8の敷居のことは、あえて曖昧に近代革命と呼ぶことにする」(Christian, Brown & Benjamin 2013: 216=2016: 254、評者改訳)とあり、近代に至る変化を政治面・文化面も含めて多元的に捉えるスタンスは「敷居」導入後も保たれていることがわかる。
これに続いて共通暦1700〜1900年を扱う第11章は、ブラウンが起草したものであり、そこでは「産業革命を第8の敷居と見なす根拠は、それが人間社会に引き起こした急速な変革にある。〔…〕この変革の基底にあるのは石炭と石油の燃焼である」と書かれている。敷居8の指すものがクリスチャンとブラウンで違うわけである。その上で、産業革命の本質を「製造・輸送・通信において、人力・畜力に代わり、化石燃料を系統立てて利用するようになったことを受けて起きた様々な変化」のことであるとブラウンが喝破し定義しているのは興味深い(Ibid.: 244=288、評者改訳)。
ここには敷居8をあくまで政治・経済・文化の三重革命と捉えるクリスチャンと、そのうちの経済(産業革命)に焦点をしぼるブラウンとの違いが見て取れる。
(3)晩期はクリスチャンとブラウンが共に「複雑さ増大の敷居」の時代区分に則って自身の通史を書き改め、世に問うた時期であるが、ここまでに述べた違いと変遷を踏まえると俄然面白くなる。
ブラウンは、遺著『ビッグバンからあなたまで』(原書2016年)において、敷居8を論じる際に工業化に焦点をしぼる立場は変わらないものの、同書第1章で敷居7を「農業の出現(有機エネルギー)」、敷居8を「工業化の出現(化石燃料エネルギー)」とし(Brown 2016: 12 =2024: 42、評者改訳)、同書第9章で農業を、同書第10章で工業化を論じる際に明らかにエネルギーを軸足に置いている。
その上で、敷居8を論ずる第10章を「地球一体化 敷居8(1500–2000年)」と題し、本書『ビッグ・ヒストリー』においても人間史を描く際の軸であった地球一体化(globalization)を
ステップ1 世界システム
ステップ2 産業革命
ステップ3 20世紀
の三段階に分け、工業化つまり産業革命をその中間段階に位置づけ直している(Brown 2016: Chaps. 9–10=2024: 第9–10章)。原点に立ち返り自身の史観を刷新したとも言えるだろう。翌2017年に彼女は世を去った。
残されたクリスチャンは、ブラウンに感化されたのか、近著『オリジン・ストーリー』(原書2018年)において、敷居8を経済面(産業革命)に特化して捉える彼女の路線をさらに突き進め、そのエネルギー源たる化石燃料に着目してそれを「化石燃料革命」(fossil-fuels revolution)と呼ぶようになる。近代革命という大づかみながらも総体的な概念を捨て、エネルギー重視の立場を鮮明にしたわけである(Christian 2018: Chapter 10=2019: 第10章)。
ところがそれが、なんでもエネルギーの流れに還元し、それをどう汲み出し管理するかが社会や統治のあり方を規定するならば、政治の役割や人間の主体性はどこに見出せるのかという批判(Hesketh 2021)を招くことになる。
クリスチャンとブラウンは初期においてはそれぞれ比較的独立にビッグヒストリーを論じた。二人が協働する中期に入ると、ブラウンはクリスチャンの「複雑さ増大の敷居」を受容するとともに、その8番目の敷居を論じるに当たって経済面を重視し、晩期にはその根底にあるエネルギーに叙述の軸を置いた。ブラウンの中期から晩期にかけての変化を(当人の意識は別として)一番受け継いでいるのはクリスチャンである。こうした相互の影響も、本書を踏まえてこそ見えてくることなのである。
むすびに
以上で明らかな通り、既存の訳書に本書が加わることで、それらの読み解き方は幾重にも広がり深まりうる。類書と読み比べながら味読されることをおすすめする。
なお、カリフォルニア・ドミニカン大学の新入生向け必修科目がビッグヒストリーとは違う内容に変わってしまって久しいが、同大でビッグヒストリーを教えたい教員向けに行った夏季講習(summer institute)に参加した、フィリピンのホーリー・エンジェル大学(Holy Angel University)の同僚たちによって、ビッグヒストリー教育の火は受け継がれている。ホーリー・エンジェル大では毎年数千名の全新入生にビッグヒストリーの履修が義務づけられており、同大の受講生は今や、世界でビッグヒストリーを学ぶ大学生の一番大きな割合を占めている(Tsujimura 2025)。ブラウンが灯した火は今なお燃えつづけているのである。
注
教科書『ビッグヒストリー』(邦訳は明石書店)の各章の起草者については、著者の一人であるクリスチャン教授にご教示いただいた。ここに記して感謝するとともに、後学のため共有する。
序章:クリスチャン
第1章:クリスチャン
第2章:ベンジャミン
第3章:ブラウン
第4章:ブラウン、クリスチャン、ベンジャミン
第5章:ベンジャミン
第6章:ブラウン
第7章:クリスチャン、ベンジャミン
第8章:ベンジャミン
第9章:ブラウン、クリスチャン
第10章:クリスチャン
第11章:ブラウン
第12章:クリスチャン
第13章:ブラウン、クリスチャン
参考文献
Big History Project: 現在のサイト(https://www.oerproject.com/Big-History)と教材は2026年7月28日に利用不可となり、同日以降は新しいサイト(https://www.oerproject.com/Big-History-Project)と教材に移行する。
Cynthia Stokes Brown Collection on the previous Dominican University of California website: https://scholar.dominican.edu/cynthia-stokes-brown-collection/ [カリフォルニア・ドミニカン大学の公式サイトは新ウェブサイト(https://www.dominican.edu/)に移行しており、旧サイト上にアーカイブされているブラウンのオンライン文庫はいずれ無くなるおそれがある。見られるうちに魚拓をとるなど保管をおすすめしたい。]
Brown, Cynthia Stokes (2016) Big History, Small World: From the Big Bang to You, Great Barrington, Massachusetts: Berkshire. [本には2017年出版と印字されているが、実際に出版されたのは2016年6月である。証拠として同年7月に刊行された国際ビッグヒストリー学会の会報Origins, Vol. VI, No. 7, p. 11 (https://cdn.wildapricot.com/56234/resources/Documents/Origins/Origins_VI_07.pdf)を参照のこと。]ブラウン、シンシア・ストークス (2024)『ビッグバンからあなたまで――若い読者に贈る138億年史』片山博文、市川賢司訳、亜紀書房。
Chaisson, Eric (2001) Cosmic Evolution: The Rise of Complexity in Nature, Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press.
Christian, David (1991) “The Case for ‘Big History’,” Journal of World History 2 (2): 223–238.
Christian, David (2004) Maps of Time: An Introduction to Big History, 1st edition, Berkeley and Los Angeles, California: University of California Press [2nd ed., 2011].
Christian, David (2008) Big History: The Big Bang, Life on Earth, and the Rise of Humanity, 8 DVDs, The Great Courses, Chantilly: The Teaching Company.
Christian, David (2018) Origin Story: A Big History of Everything, London: Allen Lane. クリスチャン、デイヴィッド (2019)『オリジン・ストーリー 138億年全史』柴田裕之訳、筑摩書房。
Christian, David, Cynthia Stokes Brown and Craig Benjamin (2013) Big History: Between Nothing and Everything, New York: McGraw Hill. [本には2014年出版と印字されているが、実際に出版されたのは2013年8月である。証拠として同年9月に刊行された国際ビッグヒストリー学会の会報IBHA Members’ Newsletter(後にOriginsに改称), Vol. III, No. 8, pp. 2–3 (https://bighistory.org/Origins/Origins_III_08.pdf)を参照のこと。] クリスチャン、デヴィッド、シンシア・ストークス・ブラウン、クレイグ・ベンジャミン (2016) 『ビッグヒストリー――われわれはどこから来て、どこへ行くのか 宇宙開闢から138億年の「人間」史』長沼毅日本語版監修、石井克弥、竹田純子、中川泉訳、明石書店。
ゴニック、ラリー (1993)『マンガ版 地球の歴史――ビッグバンからアレキサンダー大王まで』武者圭子訳、心交社。
Hesketh, Ian (2021, December 16) “What Big History misses,” Aeon: https://aeon.co/essays/we-should-be-wary-about-what-big-history-overlooks-in-its-myth
広井良典 (2021)『無と意識の人類史―私たちはどこに向かうのか』東洋経済新報社。
モンテッソーリ、マリア (2018)『人間の可能性を伸ばすために―実りの年6歳〜12歳』新版、田中正浩訳、青土社。
Novak, Philip (2015) “Big History at Dominican” in Richards B. Simon, Mojgan Behmand, and Thomas Burke eds., Teaching Big History, Oakland, California: University of California Press: 311–317.
ポンティング、クライブ (1994)『緑の世界史』上下、石弘之、京都大学環境史研究会訳、朝日新聞社。
Tsujimura, Nobuo (2025, November) “A Torch is Passed: In Remembrance of Ma. Rubeth Ronquillo-Hipolito,” ABHA Newsletter2, Asian Big History Association.
(「世界史の眼」No.76)