文献紹介:佐原徹哉『極右インターナショナリズムの時代-世界右傾化の正体』(有志舎、2025年)
山崎信一

 2025年には、日本でも参院選で「外国人問題」を提起する政党が躍進するなどして、排外主義的主張が政治的に大きな影響力を得た。さらにこうした主張は、政府の政策にも取り入れられようとしている。社会、政治の「右傾化」は、そういう意味で日本においても感じられるものとなっているが、この「右傾化」を世界的な観点から分析しようと試みているのが、佐原徹哉『極右インターナショナリズムの時代-世界右傾化の正体』(有志舎、2025年)である。ただ、本書は2025年の日本の状況に触発されて執筆されたものではなく、著者の長期間にわたる研究をベースとしてそれを総合したものであり、刊行がこのタイミングとなったのは偶然だろうが、先見の明を示している。

 著者のこれまでの研究の中心は、民間軍事会社などを含む非正規軍(パラミリタリー)や、その暴力発現のあり方にあり、これまでにも『ボスニア内戦』(有志舎、2008年)、『中東民族問題の起源:オスマン帝国とアルメニア人』(白水社、2014年)などの優れた実証研究を世に出している。本書も同様に、バルカン各国語を含む豊富な史料に依拠している。

 まず、本書の章と節の構成を挙げる。

序章 極右勢力の世界的な台頭
第一章 カウンター・ジハード主義とは何か-サイバー空間で続くユーゴスラヴィア継承戦争
  第一節 ヴァーチャル空間の十字軍戦士
  第二節 西欧とセルビアの極右思想の共鳴作用
第二章 ジハード主義とムスリム諸国の右傾化
  第一節 ジハード主義の思想的展開
  第二節 ジハード主義の結節点としてのボスニア
  第三節 伝統的宗教勢力の保守化
第三章 我々はヨーロッパ人種だ!-欧米の極右運動と「入れ替え論」
  第一節 極右の国際テロ・ネットワークとフランス新右翼の思想
  第二節 新たな人種主義の登場-フランス新右翼思想の新大陸での展開
  第三節 反ユダヤ主義の入れ替え
第四章 ブルガリアの新自由主義経済政策と極右勢力の台頭
  第一節 ブルガリアの新自由主義
  第二節 体制変動後のブルガリア政治
  第三節 ブルガリアの極右勢力
第五章 バルカン・ルート-奴隷化される難民たちと新たな特権階級
  第一節 西欧における都市政策の破綻とイスラムの犯罪視
  第二節 難民流入とシェンゲン体制の危機
  第三節 難民の犯罪化と人種主義の制度化
  第四節 新たな身分制社会への道
終章 正解の右傾化の正体
補論 シリアのアサド政権の崩壊から分かったこと

 第一章では、反イスラムのカウンター・ジハード主義を分析の対象とし、それが、ヨーロッパ各地の極右の国際的なネットワーク構築の核となっている点を述べている。第二章では、イスラム圏におけるジハード主義をその思想的系譜を分析し、カウンター・ジハード主義とジハード主義の構造的類似性を指摘している。第三章では、極右思想が、土着性を超えて普遍性を獲得し国際的なネットワークとるメカニズムに関して述べている。また、極右とリベラリズムの親和性を指摘する。第四章では、ブルガリアを例に、社会主義からの体制転換後の新自由主義的「ショック療法」を背景として、社会格差の拡大、経済の衰退、国外への人口流出、政治腐敗の構造化が起き、それが反グローバル化を掲げる極右の台頭とどう関係したのかを分析している。第五章では、2015年の「欧州難民危機」を背景に、極右の伸長を移民の増加だけを原因としては論じられないとし、人種差別が制度化される背景には、極右と新自由主義に依拠するリベラルの利害の一致があると指摘している。また、巻末の補論では、2024年秋のシリアのアサド政権崩壊とジハード主義者の背後にトルコ、ウクライナが存在することを述べている。

 本書の分析の対象は、多岐に渡っているが、そうした多様な対象の一つの焦点となっているのが、バルカン地域の状況である。第一章ではセルビアの極右イデオロギーの展開が、第二章では、ボスニアにおけるイスラム主義の展開が、そのものとしてもかなりの紙幅を割いて分析されている。また、第四章ではブルガリアを中心に体制転換後の社会、政治の変化を扱っており、バルカン地域に関心を持つ本紹介の筆者にとって非常に興味深いものでもあった。

 終章で明快に述べられているが、本書は、結論として、扱われている諸テーマは相互に結びついた複合的なものであり、その背後にグローバル資本主義の存在があること、リベラリズムに代わり極右思想が今やグローバル資本主義にとってシステムの維持のためにもっとも適合的なイデオロギーとなったことこそが、世界的「右傾化」の本質であると指摘する。

 本書に従えば、「右傾化」とはグローバル資本主義システムの自己防衛と自己存続の過程そのものであり、今後もこうした傾向が強まってゆくということであろう。その点からすれば悲観的にならざるを得ないが、ただ、それ故に、著者があとがきで述べるように、「システムから排除される人々と、なんとかシステムに踏みとどまっている人々が協力して、負の流れを逆転させることである。連帯という言葉の意味は今後ますます重要になるであろう。」という言葉に重みを感じる。

(「世界史の眼」No.71)

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