新しい帝国―合衆国とイスラエル
第二次世界大戦後、帝国は徐々に消滅してきた。140カ国が植民地支配から独立を勝ち取った。しかし、帝国を築く2つの動きがあった。イスラエルは1948年の独立以来、パレスチナ人を追放し、抑圧し続けた。1980年までにイスラエルは帝国となり、中東を支配しようとしてきた。一方、アメリカ合衆国は、1981年のロナルド・レーガン政権以降、核兵器の増強、多くの国での戦争、イスラエルとの緊密な同盟関係によって、「西洋文明」の夢を掲げつつ、過去の帝国を再び確認してきた。イスラエルとアメリカ合衆国はともに、植民地支配の廃止を支持する強い民主主義の伝統を持っていたが、多数派になることはできなかった。
イスラエルと米国の指導者たちは、特に2000年以降、中東における産軍支配を目的とした戦略で一致してきた。米国はさらに、世界的な支配も追求してきた。米国は国連への参加を徐々に縮小し、安全保障理事会での決議の拒否権行使を除いては、ほとんど参加しなくなった。一方、イスラエルは主に、パレスチナ人を抑圧しているとの非難を否定するため、国連に残って活動を続けてきた。
ジョージ・W・ブッシュ大統領の時代、この二つの同盟帝国はそれぞれより強硬な措置を講じ、世界における優位性を主張した。米国はニューヨークとワシントンでの9・11テロ攻撃の後、イラクとアフガニスタンへの侵攻を行い、イスラエルはガザでの反乱に対する抑圧を強化した。
米=イスラエル同盟は、政治的・社会的な不平等を強化し、税金を秘密裏の攻撃や終わりのないプロパガンダに流用している。米国は環境改革を無視し、一方イスラエルはパレスチナ人への対応において「環境アパルトヘイト」と非難されている。
それでも、米国とイスラエルにおいて、民主的かつ反帝国主義的な勢力が権力を掌握する可能性はゼロではなかった。
グローバル・デモクラシーとその戦略
グローバル・デモクラシーの運動は、脱植民地化と国民レベルでの平等を目的としている。つまり、各国家の自由と、国家内におけるすべての人の権利である。国連の南アフリカにおける多数派政府樹立に向けた長期的なキャンペーンは1992年までに成功したが、パレスチナ国民の国家の樹立に向けた長期的なキャンペーンは未だ成功していない。ただし、パレスチナは138カ国から承認されている。
国連において、各国代表は、各国と世界の福祉に関する広範な合意と関心を築きあげ、それには環境改革への広範な要望をも含ませている。彼らは、米国と他の4カ国が拒否権によって安全保障理事会の行動を阻止する拒否権の廃止を求めている。グローバル・デモクラシーと提携して大国になろうとする野心的な国々がある。それは、中国、ロシア、トルコ、フランスであり、そして時折インドが含まれる。
国連以外では、グローバル・デモクラシー運動は、天安門、南アフリカと西アフリカ、東欧などでのデモのように、世界的なデモを通じて平等を支援する取り組みを行ってきた。真実と和解委員会は、数多くの国で紛争の解決を目指してきた。グローバルな大衆カルチャー、特にスポーツは、伝統の広範な共有を促進した。世界的なデモは、2003年のイラク侵攻に反対し、2020年にはジョージ・フロイドの記憶を偲び、差別撤廃を訴えた。特に強力な反対運動はジェノサイドへの反対であり、ごく最近ではイスラエルに対するジェノサイド訴追がある。
産軍の戦略
推計によると、米国は2023年10月以降、イスラエルへの軍事援助を年間$200億以上増加させた。この間、米国は世界中に基地と艦隊を維持している。これには、2007年に設立されたアフリカ司令部が含まれ、これはアフリカと西アジアで定期的な攻撃を実施し、アラブや他の敵対勢力の機関を弱体化させるための秘密プログラムを維持している。
イスラエルは植民地時代からパレスチナ指導者を暗殺してきた——この政策は2000年に拡大した際に、正式に発表された。2002年以降、米国は、パキスタンや中東だけでなく、アフリカにおいても、同様の暗殺を小規模ながら実施してきた。これらの標的殺害のほかにも、イスラエルの占領下パレスチナへの入植は、西岸地区の併合の基盤を築いてきた。このやり口に関連するイスラエルの宣伝活動は、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)に対する攻撃をでっち上げたり、米国議会議員がイスラエルの政策を支持するように政治献金をしたり、イスラエルの帝国主義を批判する者を「反ユダヤ主義」とレッテル貼りして歴史を改竄するまで多岐にわたっている。
さらに、1980年以降のイスラエルの核ミサイル生産によって、100基を大幅に上回るミサイルが備蓄されるに至っていて、それらは主にテヘランを標的としている。
歴史の教訓―帝国の征服対世界戦争
ナポレオン・ボナパルトは、1790年代の革命期フランスで最も成功した将軍として権力を掌握し、それから、世界支配の夢を抱いて帝国を築いた。彼は10年間その地位を維持したが、1814年にはその戦略は失敗した。それは、ヨーロッパのなかのあまりに多くの他の指導者たちや一般市民が彼に反対したためである。その後は、各国の統治者は、一度に一地域ずつ征服することによって帝国を拡大しようと試み、しばしば成功を収めた。
イギリスとフランスは巨大な帝国を築き、ドイツ、日本、アメリカは世界大国となった。しかし、2つの大きな場合に、戦争が制御不能になった。第一次世界大戦では、大国間の戦争が莫大なコストを要したため、ドイツ、オーストリア、オスマン帝国、ロシアの各帝国が崩壊し、その植民地15カ国が独立を勝ち取った。第二次世界大戦では、ドイツ、日本、イタリアが主導した限定戦争が世界規模に拡大した。戦後、勝利した帝国もほとんどの植民地を手放さざるを得なかったが、パレスチナは例外であった(イスラエルは1948年にイギリスから独立したが、イギリスとイスラエルはパレスチナの独立を認めなかった)。
イスラエルの現在の戦争——パレスチナを破壊し、中東を支配するための戦争——は、制御不能になり、世界大戦に発展する可能性が高い。グローバルな民主主義は、そのようなエスカレーションを阻止するために介入できるだろうか?
現在の争い
2025年1月、停戦合意により、ガザの住民数千人が破壊された自宅の残骸に戻ることができた。人質交換が行われ、国連難民救済事業機関(UNRWA)が食料と物資の配給を実施した。しかし、数ヶ月後、イスラエルは停戦合意の第二段階を実施せず、UNRWAを退去させ、ガザでの食料と物資の配給をすべて停止した。イスラエルは3月18日にガザ爆撃を再開し、その後の2ヶ月間で5,500人が死亡したと報告されている。
パレスチナ人が飢餓に直面する中、イスラエルと米国は「ガザ人道支援組織」という民間企業を設立し、5月26日からハマース反対派と分類された人々に対し、少量の水と食料を配布した。6月1日、フリーダム・フロティラ連合(=国際的な人権活動家のNGO)は、イギリス旗を掲げた船舶「マドリーン」に食料と医療物資を積んで、シチリアからガザへ向けて出航させた。乗組員12名には活動家のグレタ・トゥンベリが含まれていた。6月9日、イスラエル軍艦が同船と乗組員を拘束した。同様に、6月15日から17日にかけて予定されていた「グローバル・マーチ・トゥ・ガザ」は、カイロを経由してガザを目指す予定だったが、エジプトの治安部隊がグループを停止させ、解散させてしまった。
6月12日、国連総会(UNGA)は、ガザでの停戦に関する新たな決議を採択した。この決議は、193カ国中149カ国の支持を得た一方、反対は12カ国(=米国、イスラエルなど)に留まりまった(これは、ニューヨークでの計画されていたガザに関する会議直前のことであった。この会議では、フランスとサウジアラビアが、いくつかの国にパレスチナを外交的に承認するよう促そうとしていたのだった)。
6月13日、イスラエルはイランの原子力施設とテヘランに対して大規模な攻撃を仕掛け、科学者や将軍を殺害した。6月13日は重要な日であった。攻撃は、その日イタリアで開幕したG7会議の議題を揺り動かした。また「マドリーン」と「グローバル・マーチ」(=児童労働に反対する運動)に対するメディアの注目も途絶えさせた。さらにこれは、国連総会決議に対するイスラエルの反応であり、6月17日から20日にニューヨークで開催予定だった会議(=ニューヨークの国連本部で2国家共存による中東和平を目指す国際会議が予定されていた)を「延期」させた。しかし、最も重要なことは、イランへの爆撃によって、4月から続いていた米国とイランの核平和に関する協議が中断されたことである。ドナルド・トランプは、イランへの爆撃について、米国による海外での戦争に反対するという彼の長年の立場に反するにもかかわらず、突然、イスラエルを支持するよう迫られたのだった。
明日―民主主義か世界戦争か
米国とイスラエルは現在、深刻な孤立状態に陥っている。G7加盟国と欧州諸国は、国内の反対意見の高まりを受けて、イスラエルの戦争から手を引きつつある。BRICS諸国(インドを除く)はイスラエルの攻撃に反対している。ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの諸国における市民運動は、自国政府に対し、イスラエルにより強硬な姿勢を取るよう圧力をかけている。米国市民の世論はガザとイランへの攻撃に反対しているが、米国政府によるイスラエルへの支援はさらに強化されている。そして、6月22日、米国はイスラエルのイランに対する空爆作戦に参加した。トランプ大統領は、おそらくネタニヤフ首相からの迅速な行動を求める圧力に直面していたため、ナタンズ、フォルドゥ、イスファハンにあるイランの核施設に対する空爆を命じた。
イラン攻撃において、トランプはガザのことを忘れてしまった。ジェノサイドによる民族抑圧と大国間対立との複雑な結びつきは、突然の変化の余地を多く残している*。実際、米国とイスラエルに対する真の反対は、イランの防衛からではなく、ジェノサイドへの反対とパレスチナの独立支持から来るのである。このような反対は、世界中で明確に表れている。それは公けのデモを通じてだけでなく、国連、G7、国際司法裁判所のような公式機関を通じても出てくるのである。
私は、米国とイスラエルが最終的にはパレスチナの国家独立とイランとの平和を受け入れるだろうと信じている。その方法は、民主的な変化を通じてなのか、世界大戦を通じてなのかは分からない。いずれにせよ、ガザでの殺戮の全記録は、次第に国際社会から孤立する両「帝国」を、国際社会へ再加盟させることになるであろう。だが、これには、国際司法裁判所によるジェノサイドに関する判断を受け入れるだけでなく、グローバル・デモクラシーのより広範な原則を完全に受け入れ、大事にすることが必要となるであろう。
出典:
Patrick Manning, Empire vs. Democracy Today: The Crisis of Gaza
(Contending Voice 2025年6月24日)
https://patrickmanningworldhistorian.com/blog/empire-vs-democracy-today-the-crisis-of-gaza/
マニング氏から翻訳・掲載の許可を得てある。ただし、その後、本人からの連絡により、一部を修正してある。
*このところが不分明であったので、著者に意味を問い合わせたところ、ここでは、いくつかのことを指摘しようとしていると言う。その一つは、トランプはイラン爆撃に熱中してガザの事を本当に忘れてしまったのだという事。第二に、トランプは2セットの矛盾した目標を持っているという事。つまり、イスラエルの求めるようにガザその他のパレスチナ人を絶滅させることと、パレスチナの和平を実現すること、および、同じくイスラエルの求めるようにイランを破壊することと、イランの和平を実現することである。第三に、国連やその他の国が介入して来るかもしれないという事。とくに、ロシアと中国とパキスタンが(方法は不明だが)核兵器をイランに提供するかもしれない。こういうことがあるので、状況は不安定で突然変化が起こるかもしれないと言うのである。
(「世界史の眼」No.64)