国際司法裁判所暫定措置命令
2024年1月25日、国際司法裁判所は、昨年12月30日に南アフリカがイスラエルのガザ攻撃を「ジェノサイド」だとして訴えた件につき、暫定措置を命じた。裁判所は、南アがイスラエルに対して訴えた訴訟を、同裁判所が裁判する権利はないとするイスラエルの主張を退けたうえで、南アが裁判所に対しイスラエルに命じてほしいと訴えていた9件の措置につき、6件を認めて、イスラエルに対して命令を下した。日本のマスコミなどでは十分に報道されていないので、ここに諸項目をすべて知らせることにする。
1. まず、南アが求めていた9つの措置とは何かを見ておこう。
- ガザの内外における軍事行動を停止すること
- 軍事行動を現在以上に拡大しないこと
- 十分な食糧、水、燃料、避難所、衛生、公衆衛生の入手を認めること
- ガザにおけるパレスチナ人の生活の破壊を、心理的ダメージを含めて、防止すること
- ジェノサイドの申し立てを裏付ける証拠を破壊しないこと、また事実調査使節のような国際組織がこのような証拠を保存するためにガザにはいることを拒否しないこと
- ジェノサイド条約の規則を遵守すること
- ジェノサイドに関与した人々を罰するための措置をとること
- 事件を複雑化したり長期化させるような行動をとらないこと
- 以上の措置を実行する進捗状況を裁判所に定期的に報告すること
2. 以上の南アの要求にたいして、裁判所がイスラエルに命じた措置は6つであった。
(a) イスラエルは、ジェノサイド条約第二条に規定された行為を防止するために可能なあらゆる措置をとらなければならない。その第二条というのは、以下のとおりである。
この条約では、集団殺害とは、国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもつて行われた次の行為のいずれをも意味する。
- (a) 集団構成員を殺すこと。
- (b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
- (c) 全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。
- (d) 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
- (e) 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。
(これにはウガンダの判事とイスラエルの判事が反対した)
(b) イスラエルはその軍隊が上のいかなる行為も行わないように保証しなければならない。(これにはウガンダの判事とイスラエルの判事が反対した)
(c) イスラエルは、「ガザ地区のパレスチナ人にたいしジェノサイドを行わせる直接的・大衆的な扇動」を防止し罰しなければならない。(これにはウガンダの判事とイスラエルの判事が反対した)
(d) イスラエルは、ガザの民間人に基礎的なサービスと基本的な人道的援助を与えなければならない。(これにはウガンダの判事が反対した)
(e) イスラエルは、ガザにおける戦争犯罪の証拠を破壊することを防止し、事実調査使節が入ることを認めなければならない。(これにはウガンダの判事が反対した)
(f) イスラエルは、裁判所が求める処置を遵守するために執った措置を判決の一か月以内に報告しなければならない。南アフリカはその報告に反論する機会を与えられるものとする。(これにはウガンダの判事とイスラエルの判事が反対した)
結局、この中間的判決では、南アが求めていた9つの措置のうち、1、7、8は採用されなかったわけである。また裁判所はこの判決を履行させる強制力は持っていない。したがって、次は国連安保理事会に付託されることになる。なおウガンダの判事は、イスラエルはジェノサイドを犯そうとは「意図」していないのであるから、この事件は国際司法裁判所の検討事項には当てはまらないと主張して6項のすべてに「反対」した。
(南塚信吾)
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アメリカの世界史研究の第一人者であるパトリック・マニングが自身のサイトに、現在のガザ危機について見解を載せ、各方面からのコメントを求めている。かれはアメリカ政府と、国連およびその後ろの国際世論とを対置させつつ状況を見ており、今回の南アによる国際司法裁判所へのジェノサイド訴訟と裁判所の判決に注目している。アメリカの良心的な立場を示すものとして、下のサイトでかれの意見をぜひご一読願いたい。そして、コメントも。
Who Rules the World Today? – Patrick Manning (patrickmanningworldhistorian.com)
(南塚信吾)