「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える 9(2024年2月4日)

「イスラエル批判と反ユダヤ主義」その後

 2023年12月20日付けの本特集6に寄稿した「イスラエル批判と反ユダヤ主義」において、大学内におけるイスラエル批判の運動への対応をめぐって、米国の連邦下院での公聴会で共和党右派議員による批判の的となった3人の学長の内、ペンシルヴァニア大学の学長が辞任に追い込まれたことに触れたが、その後24年1月2日に、さらにもう一人、ハーヴァード大学のクローディン・ゲイ学長も辞任を発表するに至った。その前日には、保守派のオンラインジャーナルにゲイ学長の論文についての盗用疑惑が報じられたというタイミングであったが、辞任決意はそれ以前になされたと報じられており、イスラエルのガザ侵攻をめぐる大学内の情勢がこの事態をもたらしたことは明らかである。

 ゲイは、ハイチ系の移民家庭に生まれた黒人女性であり、スタンフォード大学を経てハーヴァードで教鞭をとり、昨年9月にハーヴァードで初の黒人女性学長となったばかりであった(女性学長は2007年~18年のファウスト学長が初)。9月末の就任演説で、彼女は「いま私の立っているところから400ヤードも離れていない地点で、約400年前、4人の黒人奴隷がハーヴァード大学学長の所有物として暮らし働いていました」と語りはじめたという(就任式に列席した巽孝之慶應義塾ニューヨーク学院長の報告から)。人種差別、人種主義をめぐる問題がなお渦巻いている米国で、その最有力大学の学長にこうした彼女が就任することの意味は大きいと考えられていた。そのゲイを辞任に追い込んだ反ユダヤ主義をめぐる社会的・政治的文脈について考える上でも、ヨーロッパ、とりわけドイツにおける状況は重要な意味をもつ。今回の特集には、その問題に切り込んだ木戸衛一氏の論考を掲載する。

(木畑洋一)

木戸衛一
ドイツの内なる植民地主義?

カテゴリー: 「世界史の眼」特集 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です