米国内で目立ち始めたイスラエル批判の動向
油井大三郎

 2023年10月23日、バイデン大統領はイスラエルを訪問し、ハマスによるイスラエル攻撃を2001年9月11日の同時多発テロ事件になぞらえて、イスラエル人の怒りの感情に理解を示しながら、こう語った。「私は警告する。怒りを感じても、それに飲まれてはいけない。9.11の後、我々は激高した。正義を求めて、それを実現した。だが同時に過ちも犯した」と(『朝日』10月23日号)。

 第二次世界大戦後の米国は、一貫してイスラエルを支持してきたが、イスラエルにネタニヤフ政権のような右翼政権が成立し、パレスチナ人地区への侵攻が繰り返されるようになると、少しずつ批判の姿勢を見せ始めている。特に、イスラエルによるガザへの報復攻撃が激化するにつれ、イスラエル支持の世論が減少し始めている。例えば、PBSなどの世論調査でイスラエルが「やり過ぎ」とした意見は、10月11日時点では26%であったが、11月6-9日時点になると、38%に増加していた。

 11月25-26日のニューヨーク・タイムズの世論調査で、全体の平均では親イスラエルが38%、親パレスチナが11%、同等が28%であったのに対して、自分を「大変リベラル」と考える人では、親イスラエルが16%、親パレスチナが32%、同等が35%となった。つまり、革新的なグループの間では親パレスチナが親イスラエルの倍を記録するに至っている。

 このような動きは、イスラエルがガザに報復爆撃をした直後に、「平和のためのユダヤ人の声」などの団体が呼び掛けて「ガザでの虐殺停止」を要求するデモが連邦議会内で行われ、300人が逮捕された事件にも表れている。このデモに参加したナオミ・クラインは、イスラエルがナチによるジェノサイドの恐怖を利用して、現在の虐殺を試みていると非難し、「我々はこのような形で反ユダヤ主義の恐怖を操作することを許さない」と宣言した(The Guardian, October 19, 2023)。

 米国では、イスラエルを批判すると、すぐ「反ユダヤ主義者」のレッテルが貼られ、それ以上の批判が封印される傾向がずっと続いてきたが、近年、シオニズムに反対するユダヤ系知識人の台頭が目立つようになっている。その代表格が、2007年に『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』(邦訳も2007年刊)を出版したジョン・J・ミヤシャイマーとスティーヴン・M・ウォルトであった。この本では、米国のイスラエル・ロビーがイスラエルを無条件で支持するように米国政府に圧力をかけて来たとした上で、「こうした米国の外交政策は米国の国益に適っていない。それどころか、イスラエルの長期的な利益も損なう」(上巻、p.4)と主張した。

 彼らが特に米国の利益を損なった例として挙げたのは、9.11事件以来の「対テロ戦争」の一環として2003年3月に始まったイラク戦争であった。この戦争の開戦理由として当時のブッシュ(子)政権があげたのがフセイン政権が大量破壊兵器を保有しており、それがテロリストに渡るのを防ぐ必要性であった。しかし、実際に開戦後、フセイン政権が打倒され、米軍がイラクを隈なく探したが、大量破壊兵器は発見されなかった。

 つまり、ブッシュ政権は「がせネタ」に踊らされて、国連安全保障理事会の同意も得られないまま、開戦したこと、その結果、長期にわたるイラク占領で、米兵にも多数の犠牲者をだすことになったのであった。当然、米国の議会ではこの「がせネタ」を誰が流したのか、追求したが、この本の著者はそれがイスラエル政権から流され、米国のイスラエル・ロビーがブッシュ政権の開戦決断に重大な影響を及ぼしたと主張した(下巻、p.71)。

 例えば、開戦1年前の2002年4月中旬、ネタニヤフ・イスラエル元首相がワシントンを訪問し、米国の上院議員や『ワシントン・ポスト』の編集委員と会談し、こう語ったという。「サダム・フセイン大統領は核兵器を開発中である。その核兵器は、スーツケースや小型かばんに入れて運ぶことができるものだ。もちろん米国本土にも運び入れることができる」と(下巻、p.79)。また、当時イスラエルの外相だったシモン・ペレスはCNNの番組に出演しこう語った。「サダム・フセインはビン・ラディンと同じくらい危険です。米国はフセインが核兵器を開発しているのに、ただ座ってそれを見物しているべきではないのです」と(下巻、p.79)。

 当時のブッシュ政権では、副大統領のチェイニー、国防長官のラムズフェルトら「ネオコン」と呼ばれた保守派の対外干渉主義者が政権の中枢を占めていた。このネオコン・グループは、1997年に2000年の大統領選挙で共和党政権を奪還すべく結成された「新アメリカの世紀プロジェクト」に起源をもっていた。このグループの中には、ノーマン・ポドレッツのような保守化したユダヤ系の知識人も参加していた(拙著『好戦の共和国 アメリカ』。pp.265-6)。

 米国におけるユダヤ系移民の多くは19世紀末に東欧やロシアから移民し、大都市の不熟練労働者として、民主党を支持する傾向が強かった。しかし、1980年代になると、富裕化して共和党に鞍替えするものが出始め、イスラエルを無条件で支持する「保守的国際主義」の主張を展開するようになった。それでも、過去の差別やホロコーストの体験から現在でも革新的な立場を維持しているユダヤ系も多く、彼らは民主党左派に影響力を維持している。

 その民主党ではイスラエルのガザ侵攻が激化する中で、4分3が停戦を支持するようになっており、即時停戦を求める決議が40人の民主党議員によって提案されたという(『朝日』12月5日)。他方、共和党の中にはトランプ前大統領の影響を受けて「アメリカ・ファースト」の動きが出て、イスラエルへの軍事援助が減額される可能性もある。そうなると、従来のように米国政府が無条件にイスラエルを支持し続ける政策に転機が訪れる可能性もある。今後の米国世論や政府の動向を注視する必要があるだろう。

(「世界史の眼」2023.12 特集号5)

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「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える 4(2023年12月9日)

 「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考えるの第4回として、藤田進さんにお寄せ頂いた、「イスラエル軍ガザ攻撃60日目の今」を掲載します。

藤田進
イスラエル軍ガザ攻撃60日目の今

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イスラエル軍ガザ攻撃60日目の今
藤田進

Israeli tanks surrounding the Al-Shifa Medical Complex in Gaza City. (Photo: via WAFA)

 11月14日深夜イスラエル軍は、ガザ北部のシファ病院地下にハマースの司令部があるとして突入に踏み切った。そして病院敷地内で地下トンネルの「入り口」を発見、武器も発見したと主張した。ハマースはこれらの情報についてイスラエル軍のでっち上げとした。病院は命を繋ぐ最後の砦であり、如何なる大義名分を掲げようとも決して侵されることが許されない。最大限の言葉で非難すると共に、この凄惨な事態を伝える情報の乏しさと偏りによって、パレスチナの人々の命を危機に晒す残虐行為が正当化されることの無きよう、現地の報道や情報を交え現状をお伝えしたい(藤田進)。

Ⅰ イスラエル軍によるシファ病院蹂躙の詳細

 シファ病院はガザ最大の総合病院であり、特に高度の技術水準の医師と最新医療設備を備えた外科・整形外科の存在はガザ住民にとりきわめて重要であり、年間3万2000件の手術(2022年)をこなしてきた(https://www.aljazeera.net/encyclopedia/2023/11/27)。ガザ自治政府広報部の発表によれば、イスラエル軍封鎖当時シファ病院には約1500人の医師、約700人の患者、新生児39人、さらに家を失い安全を求めて避難してきた人々が約7000人いた。

 11月14日深夜イスラエル軍がシファ病院に突入した。翌15日の衛星テレビのアル・ジャジーラのインタビューで、ガザ病院連合会長のムハンマド・ザクート氏は病院の窮状について次のように語った。

 「シファ病院はイスラエル軍突入の数日前から戦車で包囲されており、電力も燃料も断ち切られた中で集中治療室の患者と新生児の多くが死亡した。イスラエル軍はイスラムの戒律に基いて死者を弔い埋葬することを禁じ、病院当局はやむなく昨日14日に100人の犠牲者の遺体を病院の構内に集団埋葬した」。

 「イスラエル軍突入時、病院構内にはパレスチナ人コマンドもイスラエルの人質も見当たらず、軍は一発の銃弾も浴びなかったにもかかわらず、建物の通路から出てくる人々を銃撃した。」

 「イスラエルはシファ病院にハマースの軍司令部があると主張したが、ハマースはこの主張を全面的に否定し、国連調査委員会にことの真相をあきらかにするよう要求していた。」

 「イスラエル占領軍は自軍兵士が病院内へ突入すれば勝利は自分たちのものだと判断し、15日の明け方緊急治療棟と外科病棟の二つの建物に突入した。しかしハマース軍の存在を示すようなものは何も発見できなかった。病院内に閉じ込められた患者、患者の付添人、医師たちは院内を移動することも禁止されて10時間にわたる取り調べを受け、取り調べは今も続いている。」

 「新生児が看護、保育器、薬を欠いて特に危険な状態にあり、我々ガザの医師団はイスラエル軍に発電用燃料を病院に緊急に供給して欲しいと訴えたが、占領軍はその要求を拒否した。」

 「エジプト側のラファ検問所を通って運ばれてくる医療支援物資は2週間前から全くガザ市に届いておらず、我々は患者たちのエジプトへの移送を強く求めている。」https://www.alijazeera.net/news/2023/11/15

 11月18日、シファ病院を占拠しているイスラエル軍はムハンマド・アブー・サルミーヤ病院長に病院を明け渡すよう通告した。院長はこれまでに通告を何度か拒否してきたが、ついに数百人の患者と避難者たちをガザ南部の他の病院へ移し、また数十人の新生児を安全地帯へ緊急移送する措置を講じた(https://www.alijazeera.net/news/2023/11/27)。

Ⅱ WHOのシファ病院惨状視察報告

 患者、避難民、医師団のほとんどが病院から立ち退かされたあと、世界保険機関(WHO)などの専門家チームがシファ病院の惨状視察に訪れた。イスラエル軍の許可をえて1時間だけ病院内に入ったWHOは記者会見でシファ病院を『死の地帯』と表現し、病院の惨状について次のように発表した。

 「病院にはイスラエル軍の爆撃や銃撃の弾痕跡が多く認められ、病院の入り口付近の敷地は集団埋葬地となっており、80人以上の遺体が埋葬されているとのことである。」

 「院内には25人の医療スタッフと291人の患者しか残っておらず、病院から強制退去させられるときに数人の患者が死亡している。換気装置が止まった集中治療室の2人の患者と人工透析機がかろうじて動いている22人の患者は極めて危険な状態にある。重度の骨折状態の患者29人は医療介護者を欠いて動くこともできない状態にあった。心的外傷患者の多くが伝染予防措置や抗生物質の欠如により感染症を患っていた。新生未熟児31人は無事にガザ南部のラファの病院に搬送された。」

 WHOはシファ病院の患者、医療スタッフ、さらにはガザ北部で部分的医療業務を続けている病院に取り残されている人々の安全と健康状態について重大な危惧を表明した。

 最後にWHOは病院とハマース軍事拠点との関連についても触れ、「シファ病院の医師たちは病院内にいるのは一般市民だけでコマンドの姿は見たことがないと語っていた。我々も、病院がハマース軍事本部として使われていたとする根拠を見いだすことはできなかった」と述べた。

 WHOは、ガザにおける人道にもとる大破滅を阻止するために即時停戦ととぎれることのない人道支援にむけて全世界が一致して取り組むよう訴えた(https://www.palestinechronicle.com/al-shifa-hospital-was-turned-into-who)。

Ⅲ イスラエル軍の「病院地下のハマース軍事指令部」説の破綻

 11月16日、シファ病院捜索中のイスラエル占領軍のダニエル・ハガル報道官が「病院にハマースの地下トンネルと武器・秘密情報機材等を発見した」と発表した。しかしこの主張がハマースの全面否定や先のWHOのコメントが指摘するように物証不足で説得力を欠く中、11月23日のアメリカ衛星テレビCNNのインタビューで、元イスラエル軍司令官でイスラエル首相も務めたエフード・バラク氏が「イスラエルはガザを占領していた40~50年前にシファ病院の地下に避難所を作り、地下トンネルもそのときに掘った」と証言し(https://www.aljazeera.net/politics/2023/11/23)、イスラエル側の「ハマースの築いた地下トンネル」説は決定的に破綻した。イスラエルが「テロリストのハマースの軍事拠点」を発見して「ガザ侵略戦争」を正当化しようと企てた情報戦略は、多方面からの証言や情報により信憑性は揺らぎ、イスラエル軍はガザ住民への残虐行為を繰り返しているに過ぎないという現状が浮き彫りとなった。

 イスラエルとハマースは人質交換とガザへの緊急支援物資搬入のため、11月24日から4日間(その後3日間延長)の停戦協定を結んだ。しかし停戦期間4日目の11月27日、ガザ自治政府保険省スポークスマンのアシュラフ・アルキドラ氏がガザ北部の医療システム崩壊状況を次のように明らかにした。

 「イスラエル占領軍はガザ北部の病院組織を破壊して同地域から住民をガザ南部へ立ち退かせようとしており、医師・看護士たちも一緒に追い立ててその多くを死傷させようとしている。救急車は60台以上が破壊され、医療関係施設は160か所が爆撃されて28の病院は医療活動不能となり、応急措置を施す医療センター63か所も破壊された。」

 「イスラエル・ハマース停戦協定発効直後にガザに搬入された医療物資は必要量より少く、しかも遺憾なことにガザ北部の病院には全く届かなかった。停戦協定期間中もイスラエル軍の病院弾圧は続いており、ガザの医療状態の悪化は極限まできている。ガザの保険組織を保護する役割を担っている国連諸機関は全くその任を果たしていない。医療必需品が十分供給されぬままガザの医療システムは刻々崩壊しつつある。」(The Palestine Information Center,2023 November 27  https://palinfo.com/864355

Ⅳ 停戦期間打ち切り後のハマース政治局員サーレフ・アルアルーリーの声明

 12月1日ドーハで行き詰まった人質交換交渉決裂後、イスラエル軍はガザ報復攻撃を再開し1日で200名以上のパレスチナ人を殺害した。2日夕方、ハマース政治局員のサーレフ・アルアルーリーが次の様なメッセージをアル・ジャジーラ・ネットとのインタビューで表明した。

  1. 「ハマースは最初から外国人の人質は無条件で解放し、また子どもと女性も人質対象でないので解放することにしていた。いま我々のもとにいる人質はイスラエル人の兵士と元軍人だけである。イスラエルが兵士の人質解放交渉を途中で拒否したのは、女性や子供を殺害し続けることによって我々を屈服させようと考えているからである。だがもはや我々は、イスラエルが敵対戦争を終了するまで人質解放交渉に応じるつもりはない。これが我々の公的で最終的な立場である。」
  2. 「イスラエル軍はガザ攻撃に陸軍の3分の1、空軍の3分の1以上を動員したが、その軍事力は数か国を完全に打ち敗れるほど強力である。しかしイスラエルはその軍事力を駆使して50日もかけながら、ガザ北部の3分の1の侵略にとどまりしかも我々の抵抗にあって同地域を完全掌握できないままである。そしてイスラエルが軍事力でハマース殲滅、人質奪還、ガザ占領を実現すると宣言したのを当初支持した国々も、今ではそれらの目的実現は困難だと確信するに至った。」

 そしてアルアルーリーは声明の最後で、イスラエルを断固支持するアメリカについて次の様に述べた。「アメリカは、パレスチナ人に対する数々の犯罪を隠ぺいし、それらの犯罪を様々な口実を設けて正当化し、またみずからも加担している。アメリカは犯罪性において、シオニスト国家イスラエルと同列である。パレスチナにおける戦闘の武器供与国であるアメリカは道徳的に完全に破綻しており、占領国家というよりはファシズム・ナチズム型国家である。」(引用はアル・ジャジーラ記事を掲載したパレスチナ情報センター12月2日ニュースからhttps://palinfo.com/news/2023/12/02/865255)

イスラエル空爆下の病院で懐中電灯で照らしながら負傷者を手当するパレス人医師(2023年11月10日、ガザ市のインドネシア病院)© 2023 Anas al-Shareef/Reuters (https://www.hrw.org/news/2023/11/14/gaza-unlawful-israeli-hospital-strikes-worsen-health-crisis
1948年5月イスラエル軍に村から集団追放されたパレスチナ人家族(ナクバ)(https://www.aljazeera.net/midan/reality/politics/2023/12/7/)
右2023年11月、イスラエル軍にガザ北部から追い出され南部に徒歩で向かうパレスチナ人家族(ナクバ再来の恐怖)
(https://palinfo.com/?p=861054)

投稿日: 2023年12月7日

(「世界史の眼」2023.12 特集号4)

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「世界史の眼」No.45(2023年12月)

今号では、本年刊行された、小山田紀子、吉澤文寿、W.ブリュイエール・オステル編『植民地化・脱植民地化の比較史―フランス・アルジェリアと日本・朝鮮関係を中心に』(藤原書店、 2023年)を、南塚信吾さんに書評して頂きました。

南塚信吾
小山田紀子・吉澤文寿・W.ブリュイエール・オステル編『植民地化・脱植民地化の比較史―フランス・アルジェリアと日本・朝鮮関係を中心に』藤原書店 2023年

小山田紀子、吉澤文寿、W.ブリュイエール・オステル編『植民地化・脱植民地化の比較史―フランス・アルジェリアと日本・朝鮮関係を中心に』(藤原書店、 2023年)の出版社による紹介ページはこちらです。

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世界史研究所では、11月より、「「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える」と題して、この問題に関する論考を掲載しております。これまで3度に亘り掲載してまいりました。今後も続けてゆく予定です。

「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える(2023年11月12日)

藤田進
ハマースのアル・カッサーム部隊のイスラエル軍事侵攻を検証する

木畑洋一
パレスチナ問題の起源:第一次世界大戦期のイギリス三枚舌外交

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「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える2(2023年11月21日)

藤田進
ハマース政治局情報センターの緊急メッセージ

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「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える3(2023年11月26日)

藤田進
イスラエル軍ガザ攻撃47日目の今

藤田進
「ユダヤ人国家」イスラエルはどのように実現したのか―分割され奪われ続けるパレスチナ (1)―

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小山田紀子・吉澤文寿・W.ブリュイエール・オステル編『植民地化・脱植民地化の比較史―フランス・アルジェリアと日本・朝鮮関係を中心に』藤原書店 2023年
南塚信吾

 本書は、フランスのアルジェリア植民地支配と日本の朝鮮植民地支配になんらかの形で関係する研究をしている歴史家たちが、「植民地化・脱植民地化の比較史」を目指して書いた論文を集めた論集である。

 表題から考えると、今日、日本と韓国・朝鮮との関係が「冷たい」のは、何が問題だったのだろう。世界のどこでも植民国と植民地との関係であったところでは、こうしたものなのだろうか。例えば、フランスとアルジェリアの関係はどうなのだろう。日本の朝鮮植民地化がフランスのアルジェリア植民地化とどう違うのだろう。朝鮮の脱植民地化への日本の関与と、フランスのアルジェリアの脱植民地化への関係とはどう違うのだろう。あるいは、きわめてよく似ているのか。こうした問題を念頭に置いてしまう。本書はそうした問題に直接的に答えるものではない。しかし、考えるヒントは与えてくれている。

 本書は必ずしも植民地化・脱植民地化の「比較」を徹底しているわけではないが、「比較」すべき論点はほぼすべて提供している。本書の構成は以下のようである。

Ⅰ 植民地化・植民地支配と民族運動・労働運動
Ⅱ 脱植民地化の過程
Ⅲ 独立/解放後の政治と経済
Ⅳ 人の移動と被植民者(移民)の地位
Ⅴ フランス・アルジェリア・日本関係から見たグローバル・ヒストリー
Ⅵ 植民地と文学
Ⅶ 「記憶の戦争」と植民地責任論

 この目次からは直接的には見えてこないが、「比較」すべき論点として、「植民地戦争」というとらえ方、植民地支配と在地権力の関係、反植民地抵抗運動、植民地の民衆の眼から見た植民観、「植民地責任」の問題、脱植民地のもとでの社会主義と新自由主義の役割、脱植民地後の人の移動、旧植民地から来た人たちの法的地位・二重国籍の問題、引揚者による「歴史の記憶」「記憶の戦争」という問題、旧植民地出身者の内部対立、植民地史教育など、実に多様なものが提起されている。

 ここでは、評者の視点から、「比較」のポイントを四つだけ拾い挙げて、それに本書がどのように答えようとしているのかを探ってみたい。

 まず「植民地化」についてであるが、第一に、「植民地戦争」という捉えかたが提起されている。「植民地戦争」という見方は、植民地から見れば「植民地支配」=平時と「戦争」=戦時とは分離できず密接に結びついているのであり、これらを一体として考えるべきであるというものである。そしてこれは、日本の朝鮮支配について有効な見方だと主張されている。「韓国併合」後の「植民地支配」下での個々の抑圧・軍事的暴力からアジア太平洋戦争下での大陸膨張までを、全体として植民地戦争と捉えるべきであるというわけである(槇論文)。では、フランスのアルジェリア支配はどうなのかという問題が当然出てくる。本書では、1961年のアルジェリア解放戦争での異議申し立て運動などが論じられているが、アルジェリア戦争は植民地戦争とみるとどういう視野が開けてくるのだろうか。おそらく1830年のフランスのアルジェリア進出からの支配が全体として論じられることになるのだろう。

 第二に、植民地支配についての民衆の眼という視角が提起されている。日本の朝鮮支配の時期の民衆レベルでの日本観、日帝支配観が論じられている。朝鮮民衆にとって、「文明開化なんて、たいしたものじゃない。一言でいうと、人殺しの道具が上等だってことと、ひとさまの持ち物をかっさらうのが文明開化じゃないか」、「昔はわれわれの前にひざまずいていた倭奴たちが、俺たちの喪服をまねて自分たちの着物を作った・・・」のだと受け取られていた。だが、では日本人とは何なのか。「日本人に民族主義など存在しない。あるとしても希薄で、軍国主義と皇道主義が本筋だ。」結局、日本人は天皇という現人神を崇拝する人間だということだと考える。そして朝鮮民衆の抵抗意識の頂点にあるのは、日本人の現人神崇拝への批判とそれを押し付けられることへの抵抗であったという(申銀珠論文)。植民者の精神構造への抵抗こそが、反植民地抵抗運動なのである。では、アルジェリアの民衆の眼から見たフランス観はどうか。

 第三に、在地権力の問題がある。これは幕末の駐日公使レオン・ロッシュの研究として提起されている。ロッシュの個人史は興味深いが、「植民地化」の比較の中では、どのように扱うべきであろうか。小山田は、フランスが植民地帝国と発展していく過程で、フランスは北アフリカのマグレブの支配のために在地権力を利用しようとし、同じく日本でも日本をフランスの経済圏に引き込むために在地の幕府権力を利用しようとしたというところに意味を見出している。つまり、自由主義帝国主義のために「植民地」「反植民地」にどういう政策で入り込むかという問題への一つの答をここに見ているのである。日本が韓国の在地権力をどのように利用したか、それとの比較がされていくと、議論が広がるのではないだろうか。

 次に「脱植民地化」についてみてみよう。

 第一に、「植民地責任」の問題がある。「植民地支配」と「戦争」とを全体としてとらえる「植民地戦争」という視角は「植民地支配責任」につながる。1910年の韓国併合とその後の韓国支配を合法的な植民地支配と捉え、第二次世界大戦期の「慰安婦問題」などと切り離して、「慰安婦問題」の実在性を問おうという日本政府の姿勢に対し、日露戦争期の抗日義兵闘争以来の対日「植民地戦争」という見方は、第二次世界大戦期までの「植民地支配」の責任を問うのである(吉澤論文)。日本は朝鮮への植民地責任を回避し、それを解決済みと称し、問題を太平洋戦争中の「慰安婦問題」に集約しているというわけである。では、フランスのアルジェリアへの植民地責任についてはどうなっているのだろう。これが比較されるとよかった。

 第二に、「脱植民地化」のもとで採用された社会主義と新自由主義の問題が提起されている。アルジェリアでは、独立後1960-70年代にベン・ベラおよびブーメディエンのもとで社会主義政策がとられたが、資源依存経済は脱却できず、工業化も前進しなかった。80年代前半には原油価格の高値に支えられて経済は好調であったが、後半には価格が下がり、経済困難に陥った。そこで採用されたのが新自由主義のための「構造調整」政策であった。農地を含む民営化、市場化が実施された。しかし、これは食糧問題、失業、住宅問題などを引き起こし、新自由主義政権を批判する抗議デモが各地で起きた。そして、2019年には民衆的平和的・非暴力的抗議運動ヒラクが起きて、ついに政権を倒壊させた。この「市民革命」は、諸個人の自発性に基づき、多様性と協調を基調とし、自由と平等を主張するものであった。それは新自由主義的グローバル化時代における民衆運動の発現形態であるとされる。とすれば、それは世界の他の地域でもあり得る運動であった(福田論文、渡辺論文)。それは韓国ではどうであったか。脱植民地化が南北朝鮮の動きとして南北を同時に視野にいれて考察されていて興味深い。ただ、「脱冷戦」期の南北朝鮮の動きも、新自由主義との関係で論じられていれば、「比較」が実り多いものになったように思われる。

 最後に「比較」史とグローバル・ヒストリーの関係について問題提起を行った短い論稿がある。ここでは、地理的にも時代的にも離れた二つの植民地化・脱植民地化の「比較」は、グローバル・ヒストリーの中に位置づけられなければ、意味をなさないのではないかという問いが発せられている。その問いに対して、本章は、必ずしも十分な解答を与えているわけではないが、いくつかの可能性を示唆している。その一つは、帝国主義的アプローチをする歴史学の刷新であるという。つまり、「ある国家が軍事的手段によって領土を支配することをどのように設定し正当化するのかという帝国構築のプロセス、またそれによって引き起こされる暴力を理解すること、そして古い行政機関を消滅させ、新しい植民地行政機関を構築する論理を問う」ことを比較しあえるというのである。

 この書評では、比較研究のすべての論点を扱うことはできなかったが、今回の日本・朝鮮、フランス・アルジェリアの「植民地化・脱植民地化」の比較研究が、地球的規模で展開され、さらには、植民地化・脱植民地化の研究全体にどのような新たな視角を提供するのだろうか、見守りたいものである。世界史を考えるうえで重要な諸問題を投げかける一書である。

(「世界史の眼」No.45)

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「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える 3(2023年11月26日)

報道のバイアス

 英国放送協会(British Broadcasting Corporation BBC)所属の8人のジャーナリストたちが、11月23日までにアルジャジーラに書簡を送り、イギリスの報道機関が今回のガザ地区におけるイスラエルとパレスチナの戦争の報道において、偏向が顕著で、公正な報道がなされていないとBBCを批判した。

As Israel pounds Gaza, BBC journalists accuse broadcaster of bias | Israel-Palestine conflict News | Al Jazeerahttps://www.aljazeera.com/news/2023/11/23/as-israel-pounds-gaza-bbc-journalists-accuse-broadcaster-of-bias

 論点は、いくつもあるが、主なものを上げておこう。

  1. BBCの報道は、「歴史的コンテクスト」を無視した報道をしている。
  2. ウクライナでのロシアの「戦争犯罪」については容赦がないのに、ガザでのイスラエルの戦争犯罪には触れていない。
  3. 「虐殺」や「残虐行為」という言葉をハマースについてだけ使っていて、イスラエル側には使っていない。
  4. パレスチナ人に比べて、イスラエル側の「犠牲者」を人道的に扱っている。イスラエル側の犠牲者については、名前などを挙げたり、家族のインタヴューを報じたりしているが、パレスチナ側の犠牲者については全く無視している。

 こうした論点を上げて、BBCはアメリカやイギリスの政府の意向を反映していて、双方について公正に人道的な報道をしておらず、読者・視聴者に正しい理解をする材料を提供していないと批判したのである。

 これは、日本の大手メディアにもそのまま当てはまる批判であろう。そういうバイアスを乗り越えるためにも、次にアルジャジーラなどからのアラビア語からの情報を藤田進さんの翻訳で紹介する。

 また、BBCのジャーナリストたちが批判するように、報道には「歴史的コンテキクスト」が全く無視されている。そのコンテクストを理解するためには、1948年にイスラエル国家ができたことの意味を知っておく必要がある。この問題についての藤田さんの論稿を数回にわたって、掲載する。

(南塚信吾)

藤田進
イスラエル軍ガザ攻撃47日目の今

藤田進
「ユダヤ人国家」イスラエルはどのように実現したのか―分割され奪われ続けるパレスチナ (1)―

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イスラエル軍ガザ攻撃47日目の今
藤田進

 10月7日占領地・ガザを発進したパレスチナ民族組織ハマースのアル・カッサーム部隊が占領本国イスラエルを急襲したのを機に、ガザ北部を占領しようとするイスラエルは「テロリストのハマース殲滅」を口実に、隔離壁で封鎖された中で230万住民が暮らしている南北ガザに徹底的空爆・砲撃を加えた。ライフラインは断ち切られ逃げ場のない中で、南部への退去を勧告された北部住民の多くは動かなかった。イスラエル軍はハマースの抵抗激化に直面するなかで11月10日、多くの患者・避難者を抱えて立ち退きを拒否する病院を集中的に攻撃しだした。イスラエル軍は「ハマースの地下トンネルの捜索」を口実に施設の一部を爆破後シファ病院に突入し、患者、医療スタッフ、避難していた数千人の人びとを尋問したあと病院から追い出した。ガザ封鎖で電動保育器が使えず瀕死状態となった新生児8人が死亡し、31人はエジプトの病院へ搬送されてかろうじて助かった。インドネシア病院内では軍隊の発砲で少なくとも12人が殺された。ガザに31ある病院のうち少なくとも21は完全に医療崩壊となり、他の病院も甚大な破壊を被ったうえ薬と医療品の決定的不足状態に陥った。イスラエル軍攻撃によるガザ住民の犠牲は11月22日夕方時点で、死者1万4128人(子供が5840人、女性3920人)に達した。(以上はAl Jazeera net 20 Nov 2023 by Urooba Jamal https://www.aljazeera.com/features/2023/11/20

 だがガザのイスラエル軍もハマースの至近距離からのゲリラ攻撃によって大きな犠牲を強いられており、イスラエル軍発表では10月27日地上軍侵攻後11月22日までのイスラエル軍戦死者は72名、10月7日以降の戦死者合計は将校59名、兵士392名に達したが、ハマース軍関係者によれば実際はもっとはるかに多いという(パレスチナ情報センター2023年11月23日報道、https://palinfo.com/?p=863621)。

 11月11日のパレスチナ自治区ガザの医療状況に関する国連安保理事会で、多くの国はイスラエルによる病院への攻撃を国際人道法違反だと批判し、ガザ攻撃の即刻停止を求めた。しかし安保理常任理事国のアメリカはハマースのテロを非難、ガザ攻撃はイスラエルの自衛権だとし、攻撃の即刻停止に賛成しなかった。だが国連憲章51条の「占領した領域において自衛権は発しない」に照らせば、この占領地であるガザにおいて「イスラエルの自衛権」を行使することはできないのである。つまり米拒否権発動自体が国際法を無視した、自国の利益に誘導するものなのである。

 時を同じくしてイスラエルの有力紙「ハーレツ」が、米輸送機40機以上と英輸送機20機ならびに大型輸送ヘリコプター7機が軍事機器・武器・兵員をイスラエルに運び入れたと報じている。(Matt Kennard and Mark Curtis,‘U.S.Military Is Secretly Supplying Weapons to Israel Using UK Base on Cyprus’ in DECLASSIFIED UK, 17 November 2023[https://www.declassifieduk.org/])2つの大国が一つの占領地であるガザにこれら軍事支援をする意味は一体何故なのか。ガザの沖合には豊富な天然ガスが眠っていることを知らないはずがない。

(「世界史の眼」2023.11 特集号3)

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「ユダヤ人国家」イスラエルはどのように実現したのか
―分割され奪われ続けるパレスチナ (1)―
藤田進

 私たちが現時点で目にする惨事はテロを絶対的な悪とする論調により伝えられていることを目にする。しかしこの惨事はただテロという視点だけで語られる事態ではない。イスラエル建国から現在に至るまで圧倒的な抑圧と暴挙の歴史があり、ガザに住まう全ての人々にはそのような悲惨な時が積み重ねられてきたことを見ていく必要がある。

 イスラエルは1949年に国連に加盟して以来、遵守しなければならない国際法と人権規約に違反して占領と抑圧を続けてきた。法に基づいた秩序と平和を維持する責務を負っている国際社会が黙認し、イスラエルはアメリカをはじめ英・仏・独など西側主要国の支持を得て圧倒的な軍事力を背景に暴政の限りを尽くしてきた。

 建国直後から領土拡大をめざしたイスラエルは、1948年第一次中東戦争、1955年第二次中東戦争、1967年第三次中東戦争ごとにアラブ領土を占領し、停戦後は占領地撤退を定めている国際法に違反して76年間にわたり占領地を自国領土に取り込み続けてきた。

 イスラエルは2007年以来占領地ガザを16年間封鎖して「天井のない牢獄」の状態に追いやり、住民200万人(2023年230万人)を閉じ込め、医薬品、食料、その他多くの必需品の搬入を禁止した。ガザ完全封鎖とイスラエル空爆は、2008年暮れ-9年初頭の22日間に1400人、2012年11月の8日間に140人余り、2014年7-8月の51日間に2200人余り、2021年5月の15日間に256人のパレスチナ人を虐殺した。

 筆者はパレスチナの地図に沿った「ユダヤ人国家」イスラエルの実現過程を、今回は①②について検討する。

出典:藤田進『蘇るパレスチナ/東大出版1987年』より引用

1 英パレスチナ委任統治とユダヤ人入植(地図①参照)

 第一次世界大戦中のイギリスは、大英帝国航路が通過するスエズ運河と東地中海の防衛の要であるパレスチナを何としても掌中に収めたかった。そこで注目したのが、19世紀末からユダヤ人財閥のロスチャイルド家に支えられてパレスチナでユダヤ移民の入植と入植地建設に取り組んでいるシオニズム運動である。パレスチナ軍事占領を目前にした1917年、英外相バルフォアはシオニストとの間に「パレスチナにおいてユダヤ人の民族的郷土の建設を認める」と約束した「バルフォア宣言」に調印し、シオニズムを利用してパレスチナをイギリス植民地として開発することに着手した。

 1920年、英パレスチナ委任統治がスタートした。英パレスチナ委任統治は、国際連盟が「パレスチナを文明化する」役割をイギリスに任せるという形をとった植民地統治であり、「英パレスチナ委任統治協定」第六条によって、「非ユダヤ住民(ムスリムやキリスト教徒のアラブ住民―藤田)の平和・繁栄を実現し彼らの権利・利益を尊重する」ことをイギリスに義務づけていた。しかし委任統治政府初代高等弁務官のハーバード・サミュエルは熱烈なシオニストであり、バルフォア宣言に基づいてユダヤ移民の入植と土地取得を積極的に支援する反面アラブ住民側には厳しく接し、その圧政ぶりは次のように記録されている。

 「高等弁務官は『第一次世界大戦で村々は破壊され、国内は貧しさと閉塞の空気に満ちている』と指摘しながら何の打開策も講じなかった。疲弊したアラブ農民の負担能力を超えた苛酷な税を課し、その一方で安い価格の穀物を大量に輸入して国内作物の価格暴落を招いた上に作物の海外輸出を禁止した。行き詰まった農民は納税のため土地を売るしかなく、ユダヤ人は土地を安値で手に入れた。また政府は旧オスマン帝国銀行の債務取り立てを引き継いで農民に厳しく返済を迫り、その結果多くの土地が没収された……。アラブ住民は、委任統治政府の不当な政策により生活の糧を奪われる危険に陥ったことを痛感している」(Al-Huseinī,Jamāl, Radd al-Lajnati al-Tanfīdhīyah alā Mulāhazāti al-Mandūbi. 1924、140)。

 ところでユダヤ人入植者は、何故アラブ住民に対し敵対心を剥き出しにしていったのだろうか。ここで一つ言っておきたいのは、ユダヤ人入植者が入ってくる前に、このアラブの地に住まうユダヤ人は既におり、異教徒の隣人として共存していたのである。しかしロスチャイルドの支援を受けたユダヤ人入植者たちはその圧倒的財力を持ってアラブの地に、突如として近代的で立派なヨーロッパ調の街を築いていったのである。その流れのなかでユダヤ人入植者はアラブを自分たちより劣る野蛮な人々とし、それらは取り除くべき存在として敵視していく。それが表面化したのが、いわゆる「嘆きの壁事件」である。1929年8月23日金曜日、聖地エルサレム聖域ハラム・シェリーフでユダヤ人入植者に占拠されそうだとの危機感から、集団礼拝を終えたアラブ・ムスリム群衆によるユダヤ人襲撃が発生した。これを契機にユダヤ人は「旧約聖書に記された約束の地、自分たちの土地を守る」ためとし武装した入植地自警団(ハガナ、後に独立後のイスラエル正規軍)を組織し、より一層アラブ住民の排斥を強行していくとこととなるのである。

 1930年代初頭土地を奪われ追いつめられていくアラブ住民がユダヤ人入植と土地購入の禁止を求める抗議運動を起こすと、イギリスは武力弾圧で臨み、さらに抗議運動がアラブ大反乱(一九三六―三九年)となってパレスチナ全土におよんだ。

 パレスチナのアラブ紙「フィラスティーン」1936年6月17日付に載った漫画は、英委任統治下のパレスチナに暮らすアラブ住民が困窮しアラブ大反乱につながっていった過程を描き出している。

 漫画は数字に沿って次の様に説明している。①英外相バルフォアが、ユダヤ人に与えたバルフォア宣言(1917年)は、②ユダヤ人入植者をパレスチナにもたらした。英委任統治政府(1920年以降)は、ユダヤ人側にパレスチナ開発特許状を与えて➂パレスチナ公共事業、⑤ヨルダン渓谷湿地帯の土地開発、⑥死海の天然資源開発、⑦ヨルダン川電源開発をまかせ、⑧貿易港とイラク石油からパイプラインで送られてくる石油精製基地を兼ねるハイファ港の完成にユダヤ移民の工業投資を奨励した。ユダヤ人によるパレスチナ近代化が進む一方、⓸アラブ農民は土地から追放されていった。⑨アラブの指導者たちはパレスチナがユダヤ人に奪われていくとなす術もなく口角泡を飛ばしているが、⑩軍人の高等弁務官ワークホープはずらりと軍隊を並べて威圧している。政府にユダヤ人の移民・土地獲得を制限する意思はなく、アラブ民衆の窮状は深まるばかりで打開の道はなく、その間にも国土は刻々とユダヤ人国家の様相を帯び、絶望感ばかりが息苦しい。漫画はそのようにアラブの現状を描いていた。

 その結果一九三〇年代初頭、土地を奪われ追いつめられていくアラブ住民がユダヤ人入植と土地購入の禁止を求める抗議運動を起こすと英高等弁務官はこれを武力弾圧した。さらに抗議運動はアラブ大反乱(一九三六―三九年)となってパレスチナ全土におよび、反乱鎮圧は困難となった。

2 「ユダヤ人国家建設予定地」とイギリスの中東石油開発(地図②参照)

 アラブの抗議運動がパレスチナ全土に広がってアラブ大反乱となり、これを軍事力で鎮圧できなくなったイギリスは1937年、「パレスチナ委任統治は困難になった」との「ピール報告」(The Peel Commission Report)を国際連盟に提出した。同報告なかに、パレスチナをアラブ・ユダヤ両地区に分断し、ユダヤ人入植者と入植地が集中している諸都市(聖地エルサレムとヤーファは除く)が集まった沿岸部からパレスチナ北部にかけての最も肥沃な地域を「ユダヤ人国家建設予定地」に指定して図示した地図(②地図参照)を挿し込んだ(この地図が47年国連「パレスチナ問題に関する特別委員会」(UNSCOP)の分割案作成の土台となった)。「ピール報告」に挿入された「ユダヤ人国家建設予定地」を書き込んだ「パレスチナ分割」図に激怒したアラブ大反乱は、武装ゲリラ闘争に姿を変え、「ユダヤ人国家建設予定地」のパレスチナ北部を通る石油パイプラインがしばしば爆破された。

 ところで、第一次世界大戦後石油が戦闘機・軍艦の燃料として重視され、イラン・ペルシャ湾岸が膨大な石油埋蔵地として一躍脚光を浴びることになった中東はヨーロッパ帝国主義列強の熾烈な領土争いにさらされてきた。第一次世界大戦後の中東は英仏二大帝国の支配地域となり、石油開発先頭に立ったのはイギリスであった。イギリスはイランにおける石油事業の一切をイギリス国営企業の「アングロ・イラン石油会社」(AIOC)に任せ、石油製品を英本国へ送り出した。またイラクなどイギリス支配下の石油開発事業は、イギリスをはじめ国際石油メジャーの共同出資による「イラク石油会社」(IPC)に一任した。IPCのキルクーク油田が生産を開始すると、原油は二本のパイプラインで英・仏支配下の地中海沿岸の精油所に送られ、石油製品となってヨーロッパへ積み出された。

 油田、精油所、積出港がパイプラインで有機的に結ばれた石油生産・輸送一体化のシステムの中に英・仏委任統治領を組み込む一方、中東全域をカバーする英軍事体制を築いたイギリスは、東アラブ全域におよぶ石油システムの支配者として君臨し、莫大な利益を手にした。イギリスは、ペルシャ湾岸産油地帯をヨーロッパへの最重要石油供給地として開発し、油田と東地中海の石油積出港を石油パイプラインで結んだことによって、パレスチナが位置する東地中海はヨーロッパへ向かう石油タンカーの重要航路となった。

 しかしアラブ大反乱が激化した1937年以降、パレスチナのハイファ港と結ぶ石油パイプラインがしばしば爆破されてIPC石油のヨーロッパへの供給が滞る由々しき事態がもちあがった。英パレスチナ委任統治政府のアラブ弾圧はIPC石油供給システムを脅かしたばかりか、パレスチナにおけるイギリスとシオニストに対する反発を全中東に行きわたらせる結果をもたらした。独・伊との第二次世界大戦戦争が間近に迫る中でアラブ大反乱に動揺したマクドナルド英政府は39年5月、急遽シオニズム支援策を中止してユダヤ新移民の入国とユダヤ人の土地購を禁止する決定(「1939年マクドナルド白書」)を下し、アラブ大反乱の終息と大戦中の反英運動の激化を回避する策を講じた。「ユダヤ人民族国家」建設運動へのイギリスの支援を突如失ったシオニズムの側は、大戦中ナチのユダヤ人絶滅政策を逃れたユダヤ難民の受け入れを拒否するイギリスに対して暴力テロ活動を強めていった。

(続く)

(「世界史の眼」2023.11 特集号3)

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「世界史の眼」特集:「イスラエルのガザ攻撃」を考える 2(2023年11月21日)

イスラエルは「自衛権」を行使しているのか  

 イスラエルのガザ地区への攻撃は、ハマースの「テロ」攻撃に対する「自衛権」の行使であるとイスラエルは主張し、欧米の各国(アメリカ合衆国、イギリス、そしてEU)もそのように主張して、イスラエルの攻撃を容認している。

 それにしても、病院などを破壊して子供を大勢犠牲にし、燃料を押さえ、水や電気を遮断するイスラエルの攻撃が、「自衛権」を超えたものではないかという批判が渦巻いている。

 加えて、愚考するならば、国連憲章51条は、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」、「自衛権」を認めるとなっている。だが、安保理はそういう措置を一向に取りそうも、取れそうもない。となるとこの「自衛権」は無限に続きそうである。

 ところが、そもそもイスラエルに「自衛権」があるのかという、根本的な疑問が提起されているのである。日本の政府はもちろん、大手マスコミもこれには一切触れていない。アルジャジーラから聞いてみよう。

 ***

 イスラエルや欧米諸国が「自衛権」の論拠としているのは、国連憲章第51条である。

 しかし、国連関係者は、今回のイスラエルのガザ攻撃は、この51条の自衛権規定には当てはまらないと主張しているのである。国連憲章第51条を見てみよう。そこにはこう書いてある。

 「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を(行使することを=南塚)害するものではない。」

 一見すると、イスラエルはまさにこの「固有の権利」を行使しているように見える。しかし、多くの専門家がこれに疑問を呈している。例えば、パレスチナ占領地での人権に関する国連の特別報道官フランチェスカ・アルバーネスは、イスラエルは、自衛権を主張することはできないと断言しているのである。

 彼女によれば、「自衛権は国家が他の国家によって脅威を与えられた場合に発生するのである。」だが、10月7日にイスラエルが受けた攻撃は、イスラエルが効果的に統制してきた領域であるガザにいた武装集団によるものであった。イスラエルは、2005年にガザから撤退したが、ハマースが権力を握った2007年からは、地上、海上、空中の封鎖をしてきた。これは「占領」と言っていい状態である。こういう状態の下では、「イスラエルは、他の国家から脅威を受けたと主張することはできない。イスラエルは占領していた領域内の武装集団から攻撃を受けたのである。イスラエルは、自ら占領している領域から、つまり軍事的な占領をしている領域からうけた脅威に対しては、自衛権を主張することはできないのだ。」

 この「占領している領域」の問題は、ヨルダン川西岸の「壁」の問題にも関係している。 「イスラエルは、自ら占領している領域から、つまり軍事的な占領をしている領域からうけた脅威に対しては、自衛権を主張することはできないのだ」という時、フランチェスカ・アルバーネスは、ヨルダン川西岸の「壁」の事をも指している。イスラエルは、この「壁」は自衛権」に基づいていると主張している。だが2004年に、国際司法裁判所(ICJ)は、西岸で「壁」を作るという事は、「自衛権」の行使には当たらないと「勧告」していた。それは「占領した領域においては自衛権は発しない」からであるというのであった。

 たしかに陸海空の封鎖を受けている領域や、軍事的に占領されている領域を正規の「国家」と言えるかどうかは、重要な問題である。現地の人々の目線に立てば、かれらが正常な国家を持てないでいることは間違いがない。われわれはもっと現地の人々の眼で考える必要があると痛感させられる。こういう見方をもっと広く共有していかねばならないであろう。

 関心のある方は、Aljajeeraを見てください。

Does Israel have the right to self-defence in Gaza? | Israel-Palestine conflict News | Al Jazeera

 現地の人々の眼から考える参考として、ハマース政治局情報センターの緊急メッセージを次に掲げます。またガザの「アハリー・アラブ病院を支援する会ニュース・レター」を、「世界史寸評」に載せますので是非ご覧ください。

(南塚信吾)

藤田進
ハマース政治局情報センターの緊急メッセージ

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ハマース政治局情報センターの緊急メッセージ
藤田進

 「ハマース殲滅」を口実とするイスラエル軍の病院爆破攻撃によってガザがジェノサイド(住民皆殺し)状態に陥ったいま、ハマース政治局情報センターがガザ住民の窮状を報告し占領軍攻撃即時停止を訴える緊急メッセージを次々と発信しています。そのメッセージの一部を以下にお伝えします。メディア報道では届かないイスラエル軍の蛮行の現実を受け止めて、パレスチナ人集団殺戮を狙う戦争阻止に向けたさまざまな取り組みをお願いいたします。またこの情報を多くの方々に拡散していただけると幸いです。(ニュース伝達者・藤田進)

2023年10月17日夜、イスラエル軍空爆後のアハリー・アラブ病院犠牲者遺体安置所

≪10月7日以降のイスラエル占領軍ガザ攻撃による死者は1万1320人に達した≫ (以下は本文の部分翻訳―藤田)

  • ガザ自治政府情報局11月14日発表によるガザの被害状況

・イスラエル軍ガザ攻撃開始以来の死者数:1万1320人(子供4650人、女性3145人)
・イスラエル占領軍による集団虐殺:1165人、
・瓦礫の下敷きになっている行方不明者3600人(子供1755人)、
・全壊住宅4万2000軒、半壊住宅22万3000軒(ガザ住宅の60%に相当)
・政府関係建物や公共施設の破壊95か所、学校破壊255校(校舎全壊65校)、モスク破壊72か所、モスク一部崩壊165か所、
・農作物被害額:1億8000万ドル、果樹園の樹木何千本が切り倒された、
・戦車・ブルドーザー等による農地破壊4万5千ドノム、
・畜産、養鶏、漁業は完全に破綻。

  • 11月14日、ガザ自治政府情報局報道官の記者会見における発言:

・「ガザの通信会社は、動力燃料枯渇を理由に11月16日(木)以降通信とインターネットのサービス業務を全面停止すると発表した。ガザはイスラエル占領軍によるあらたな犯罪に直面することになったいま、我々は全世界に向けて以下の諸点を訴える。」

  1. 我々は、イスラエル占領軍が民間人、女性、子供にたいしておかしている様々な組織的戦争犯罪の責任をイスラエル占領当局および国際社会とりわけ米国に対して問いただす。そしてまたイスラエルと協議し、占領軍による病院・住宅への空爆・ミサイル攻撃をはじめあらゆるレベルの攻撃を支援している国際社会を我々は強く糾弾する。
  2. 我々は世界の自由諸国に対して、犯罪的占領国家イスラエルとの関係を断ち切るとともに、この占領国家が空爆・砲撃ばかりかいかなる国際法・人権法にも抵触する残酷な映像やデマまで用いて企てている集団的破壊戦争を即時止めるよう圧力を加えるよう要請する。
  3. ガザの病院と各種救援センターへ支援物資と医療必需品を届けるために、ラファの通行路の恒常的開門を可及的速やかに実現するよう要求する。
  4. ガザの病院の新生児や入院患者が絶命状態に陥る前に、またすべての医療スタッフが治療看護活動を続けるために、病院の動力燃料を緊急に供給するよう要求する。
  5. イスラエル占領軍報道官名でのランティーシ―病院に関する発表(病院はハマースのテロ活動を支援しているとの報道―引用者)は虚であり、つじつまの合わない作り話であることを言明する。軍報道官の発表は、病院を破壊して患者、医療スタッフ、避難してきた人々を瓦礫の下敷きにする空爆が迫っているとの恐怖を抱かせて人々をガザから立ち退かせようとする神経戦の一環である。われわれは、ガザの病院に集まっている数万人の医療スタッフ、患者、避難してきている人々たちの生命の安全についてイスラエル占領軍が全面的責任を負わねばならないことを明確にしておく。
  6. ガザの通信・インターネット回線を遮断する発表によって、いかに危険な結果が生じるかを警告しておく。すなわちこの連絡回線の遮断によって、ガザ230万人の生命と住民の病院や住宅を日夜破壊しているイスラエル占領軍の戦争犯罪のすべてを覆い隠すことになり、さらに連絡が取れずに人的危機が一層悪化し、緊急救援隊、民間防衛隊、市町村のさまざまな救援活動も滞ることにつながる。以上のすべてのことは、世界的に当然とされている最低限の基本的人権にも反している。通信・インターネット回線の遮断は、全てを覆い隠して何が起きているのかわからない状態にするのが目的である。

出典「ガザ・パレスチナ情報センター」2023年11月14日報道(アラビア語))(https://palinfo.com/?p=862110

(「世界史の眼」2023.11 特集号2)

 

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